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22.Escape(脱出)

ミカエラは床の上で気を失った男を仰向けにして状態を確かめると、自身のポケットから携帯を取り出し耳へ添えた。 「ハァイ、ドクター。捕獲成功よ」 電話の向こうの相手へ得意気に笑んだ彼女は時々銃声が響くエスカレーターの方角を見る。 「思ってたより随分呆気なかったわ。あの子供もアシバが追ってるから時間の問題ね。応援も不要よ。車を用意してちょうだい」 本当に捕らえられたのか、という通話相手の疑問にミカエラは足元に倒れる白島をつま先で蹴って一瞥する。 「当たり前よ。これで約束を果たしてもら…、! ?」 目を離した一瞬の隙に彼女の背後からゆらりと気配が揺らめく。声を出す暇も無く強い衝撃と共に意識は闇へ落ちていった。 * 「お電話変わらせてもらったぜ、ドクター」 ミカエラから携帯電話とマシンガンを奪った白島はふらつく身体を手すりで支えながらテルを探して非常階段で下へ降りていた。 『驚きました!あなたには…どの麻酔も効かないのデスねぇ』 「…人用だろうが熊用だろうが、があるからな」 『素晴らしい』 電話の声の主は先日、白島を勧誘しに来たあの「ブランク・ベッタニー」と名乗ったスカウトマンの男だった。 意識を取り戻した後に反撃をしてミカエラから解毒剤を奪う事ができたが、副作用は完全に消し去る事は出来なかった。倦怠感と痺れは未だに残っている。 「テメェらには聞きたいことが山ほどある…。あの女をいたぶっても良かったが、本人から聞き出すほうが早いだろう」 あの日「ボディチェック」を通して身体の情報をこの男へ渡してしまったことを後悔する。しかし、赤猫との繋がりはこれで証明された。 「なぜ俺を狙う」 『おや、もう既に見当がついているのでは?』 「…だったら、赤猫という組織は一体なんだ?なぜあのピンク野郎が生きてる?テルを殺す理由は…!」 まくし立てると、ブランクは吐息を漏らして笑った。 『全てのことにお答えできるわけではありませんが、一つだけお教えしましょう』 もったいぶって間を開けた後、静かに言い放つ。 『あの少年は、どのみち死ぬ運命ですよ』 「なんだと?それはどういう意…」 次の瞬間、非常ドアを蹴り破る音が響きアシバが下の階のフロアから現れた。 「!」 「見ィつけたァ」 彼の手には携帯が握られている。ブランク越しに居場所が筒抜けだったようだ。 白島は舌打ちをして手にしていたミカエラの携帯を放り、上階フロアまで駆け戻る。追いかけて来たアシバは鎌を投げて背を狙い、それをなんとか躱しきるものの薬の作用で足がもつれてその場に片膝をつく。 「もう諦めなァ。テメェは逃げられねえよ、サムライ」 アシバはワイヤーを巻き取りながら一歩ずつ攻め寄る。近づくなと、持っていた銃を構え敵に向けた。 「じきに組織の人間がここへ来るぜ。その身体でオレと他の奴らを倒すつもりかァ?」 「俺たちが何も用意せずに来るわけ無ぇだろ…お前が居るのは想定外だが…!」 そう言いながら白島は懐から小さな茶色の薬品瓶を取り出し、相手の上空へと投げた。その瓶を銃で撃った途端、貫通した熱と火花が薬品と化学反応を起こし小さな爆発を起こした。 「なにッ!?」 間一髪で直撃を免れたものの煙を上げ飛び散った薬品に焼かれて焦げた髪や額を抑えるアシバに向かって容赦無く鉛の雨を降らせる。 爆発の勢いで火が燃え移り始めるがビルの火災報知器が作動し、スプリンクラーが天井から水を撒き始める。鎮火されると同時に白煙がフロアに立ち込め、二人の視界を遮った。 「殺すぞテメェッ!」 アシバの悪態を聞き、白島は弾切れになったマシンガンを捨て反対方向へ一目散に走り去ると、別の階段から降りていく。しかし下のフロアは武装した黒い覆面の男達が占領し始めていた。どうやら赤猫の増援のようだ。 非常階段を含め出口は全て封鎖されている。男達は銃を所持している為、一斉に狙われると不利になる。気配を隠しながら引き返そうとするが、後ろから飛んできた鎌が顔の横の壁に突き刺さった。 「サムライィ!!」 「しつけぇな…!」 接近してきたアシバから逃げながら鞘で打ち合う。二人に気づいた男達が取り囲むように押し寄せてくる。 (――これ以上はマズイな、引き上げるか) しかし、アシバに捕捉されている以上簡単には離脱できない。飛び掛かってくる集団から逃げるが段々とビルの壁側へ追い詰められていく。すると、覆面集団の後ろの方から発砲音が鳴り、男達が呻き声をあげながら次々倒れていく。彼らは足元を素早く移動する小さな影を捕まえようと銃を向けるが狙いが定まらず、影は白島の方へ飛び出した。 「白島!」 「テル!!」 「さっさと捕まえやがれノロマ供ォ!!」 テルの牽制射撃により距離をとったアシバは混乱する男達に叱咤し今度はテルへ狙いを定めた。 白島は無事だった相方の姿を確認すると、再び薬品の小瓶を武装集団に向かって投げた。それをテルの銃が撃ち抜いた瞬間、爆発が起こる。 爆風から小さな身体を庇うように抱えると、二人は窓の方へ駆け抜けた。 「邪魔だどけェッ!!!!」 炎の中唯一無事だったアシバが火傷で転がる男達を足蹴に二人を追いかける。それより速く白島は刀で窓ガラスを叩き割った。容赦なく背後から銃を発砲し始める集団をやり過ごし、テルを小脇に抱えたままかなりの高さがあるにも関わらず外へ飛び降りた。 「クソッ!!5階だぞ!!!」 アシバはフロアの柱に片方の鎌を引っ掛け同じように窓から飛び降りるが、落下中にテルの銃弾を躱すのは至難の技だ。もう片方の鎌が運び屋達に届く寸前でワイヤーが伸びきり降下が止まる。 白島達は丁度よく止まっていた白いワゴン車の上へ着地を果たすと、勢いのままその車に乗り込み猛スピードで走り出した。

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