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第4話
《バンッ!》
「痛っ…!急に何すんだおい!」
次の瞬間腕を掴まれた手に力がこもり、横から思いっきり引っ張られ床になぎ倒された。
机と机のほんの少しのスペースに身体が収まる。
うつ伏せに倒れたため、顔や腹部に床のひんやりとした冷たい感触が感じられた。
幸いにもどこにも身体をぶつける事は無く怪我も無かったが、理解しがたい彼の行動に俺は小杉山をきつく睨み上げた。
しかしそんな行為など何の効果も無く、小杉山は俺の傍にしゃがみ込んだ。
お互い喋ることは無く、長いような短いような沈黙が続く。
不意に二人の視線が重なり合ったその刹那俺は我が目を疑い、大きく双眸を見開いた。
「んっ…ンン……!」
それは何の前触れも無く訪れた。
小杉山の手が俺の後頭部へと伸び、床から持ち上げられると同時に半開きだった唇に彼の厚みの帯びた唇が触れてきたのだ。
あまりの衝撃に何が自分に起きたのか分からない。
困惑する頭をフルに回転させ、自分が今クラスメイトに、しかも男で友人にキスされていると信じがたい事実に気付いた時にはもう時既に遅く─。
触れるだけでなくもっと濃厚な、濡れた口付け。
抵抗しようと足をバタつかせた。
…つもりだったのだが、いつの間にか俺の腰の上辺りに小杉山が馬乗りをしていた為暴れることも出来ず、両手も塞がれてしまった。
やがてゆっくりと押し倒されたまま学ランが脱がされ中のシャツのボタンに手が掛かり、次第に肌が露となっていく。
「ば、馬鹿止めろ!何でこんなことすんだよ!」
塞がれていた唇が離れたのを見計らって必死に俺は小杉山に制止の言葉を投げかける。
でも彼の手は止まることなく俺の肌に吸い付いて放れようとしない。
されるが儘の自分が歯痒く目からは悔し涙が零れ、それを見た小杉山はまた卑しく笑い話してきた。
「何故かだって?それをお前が聞くのか…」
レンズ越しに光るのは欲望をぎらつかせた眼。
その瞳を、俺は直視することが出来なくなっていた。
「なぁ、界斗。別に理由なんていらねーだろ?」
そう、理由なんて無い。
服を全て剥ぎ取られ一糸纏わぬ姿にされようとも、誰も触れたことの無いような秘部に彼が入り込んで来ようが。
そんなものは存在しないのだ。
「やぁっ……、も…、ああ……」
「此処がイイんだな」
肌が熱く火照るのと反比例して心の方はどんどん冷たく冷えていった。
ただひたすらこの行為が終わることを願って歯を食いしばり目は決して開かないよう固く閉じる。
それでも身体だけは翻弄されてしまい堕ちてゆく。
そして俺は。
俺は──。
*
《………ピピピ♪》
意識が現実に戻ってきたのはパソコンからメールの受信を知らせる音が鳴り響いた時だった。
はっとして周りを見渡せばそこは見慣れた社内の仕事場が広がっている。
激しい動悸のする心臓を落ち着かせようと息を吐いて眼鏡を外そうとした時、初めて自分が驚くほど額にびっしょりと汗を掻いていることに気がついた。
本当に嫌な記憶だ。
まさか社内で当時の記憶を思い出すとは思いもしなかったが、それも全て彼がこの同じ社内に居るせいに違いない。
デスクに置かれている冷めたコーヒーを口に含みその苦い独特な味を堪能しながら、俺は今届いたメールを見ようとマウスを動かした。
新着メールは一件。
わざわざ会社のパソコンにメールを送ってくるような奴は一人しか居ないが、念のためメールの内容を確認しようとクリックしてみる。
…案の定そうだった。
【送信者:本間潤二 本文:飯食いに行こうぜ〜】
「潤二…あれほど会社のパソコンにくだらない内容のメールを送ってくるなって言っているのに」
半ば呆れてため息をつきたくなるが、今は一人で居るより友人に相談しておいた方がいいのかもしれない。
そう思い、俺は仕事もそこそこに椅子から立ち上がるとその足で潤二の待つ社内レストランへと向かった。
室内から出て行く俺の様子を視線で追う人物の存在にも気付かずに…。
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