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第7話
潤二とそのままレストランで別れ、俺は自分の部署に戻ろうと社内エレベーターのボタンを押し、暫くエレベーターが来るのを一人で待っていた。
会社では小杉山との問題、私生活では宏実との問題と、どうにも俺にとっての安らぎの場はどこにも無い気がする。
小杉山とのことはまた後々考えることにして、ともかく今は宏実とのことを何とかしなければいけない。
今夜が二人にとって大切なものだと、俺にも何となく伝わっていた。
やがてチン、という音と共にエレベーターの扉が開き、俺はその中に足を踏み入れた。
周りに人がいないのを確認すると俺はエレベーターの【閉】ボタンを押した。
中に入った途端にどっと力が抜け、壁に身体を預け、力無く寄り掛かる。
そして階数のボタンを押そうと身を乗り出した時、徐々に閉まっていく扉の向こうからガシッと人の手が進入して、扉が閉まるのを阻んできた。
ほんの少し遅ければもう間に合わなかっただろうと思うほど、その隙間は狭いものとなっており、その人物の手は数センチしかないスペースを必死に広げようとしている。
俺は慌てて壁にある【開】ボタンを押した。
ゆっくりと扉が開かれていく。
黒いスーツがちらりと見え、目の前にいる人は男なのだということがわかった。
随分背の高い人だな、と呑気にそんなことを思っていたが、相手の顔を見た瞬間、頭を鈍器で殴られたと思うくらいの強い衝撃が俺を襲った。
「酷いな〜。お前の所為で左手が赤くなったじゃねーか界斗」
気のせいであって欲しかった。
でもその顔も声もまさしく彼のもので、揺るぎない真実に俺は激しく後悔をした。
(小杉山…っ!)
どうして今、エレベーターの【開】ボタンを押してしまったのかと。
小杉山の長い右脚が無遠慮にエレベーターの中へと入ってきて、静かに扉が再び閉まっていった。
二人だけの空間を残して。
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