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チンさんのバカ!

 ケンジが直帰したことに家族も驚いた。そして妙な言い訳をしてまずはバスルームに入って不快だった下半身を中心に体をシャワーで洗い流した。 「フゥー…生き返るぜぇ」  チンさんも上から降り注ぐシャワーのお湯を仰ぐ。 「賢二郎、早く石鹸でしっかり洗ってくれや」 「………チンさん、なんでアキにあんなこと言ったの?」  ケンジはシャワーに打たれながら俯いてチンさんに訊ねた。するとチンさんはケンジの方を向いてまた少しため息を吐いた。 「俺を含めてお前の生殖機能が悲鳴をあげてたんだよ。お前は顕孝に後ろめたさがあるから本当のことを言わねぇ、顕孝に流されちまう、お前はそれでもいいのか?」 「いいんだよ!………チンさんだって、俺と一心同体っていうなら知ってるでしょ⁉︎ 俺の方からアキを好きになったって…!」  チンさんに訴えながらケンジはグズグズと泣き始めてしまった。膝の力が抜けてシャワーに打たれながらその場に座り込む。チンさんはしっかりと勃ったままケンジの方を向いていた。 「アキが…アキは…女の子が好きかもしれないのに…なのに、アキは優しいから、だから俺に合わせてくれてんじゃねーの?って、ずっと不安になってるの…チンさんわかってるでしょ⁉︎」 「それを知った上で、俺はお前がちゃんとアキに意思を伝えるべきだと思ってる」 「どうして…どうしてだよ!いいじゃん今まで通り、放課後はアキの家に行ってアキが満足するまで付き合って、俺は少しいやでも我慢してれば!アキがいいなら俺はそれでいいんだよ!」 「このアホネコ!それはお前が顕孝を信用してねぇ証拠だ!」  ぴしゃりとチンさんが言い放つと、ケンジはチンさんを睨む。 「俺はアキが大好きなのに!なんでチンさんそんなこと言うんだよ!」 「お前が顕孝を好きなのように、顕孝はお前のことが好きって思えねぇのか!」 「思いたいよ!俺だって、そう思いたいよぉ………!」 「ならハッキリ言え!セックスは週末だけにしろ!テスト期間はやめてくれ!って」 「無理だって…それで、俺、アキに嫌われたら………」  一度陥ったネガティブ思考は上に向くことは難しい。悪い方へ悪い方へ考えてしまう。  ケンジの脳内にはアキが愛想尽かしている姿まで映る。 「チンさんのバカ!余計なこと言うなよ!」  その日はチンさんの声をケンジは聞くことはなかった。

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