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それでも好きだよ
翌朝、玄関先にアキの姿はなかった。ケンジは180秒待ってみたがアキの足音すら聞こえなかった。
肩を落としたままいつもの道を歩いて教室にたどり着いた。教室にはすでにアキの姿はあったが誰も近寄れる雰囲気ではなかった。その背中にケンジはどんどんと不安が募 った。
「ケンジ、おはよー!」
「おはよ、森山」
「なぁなぁケンジ、アキどうしたんだ?喧嘩でもしたん?」
森山がケンジに声をかけて励ますように背中を叩く。ケンジの背は丸まったままで、チンさんも微動だにしない。
「別に喧嘩とか…じゃなくて………」
「ふーん…お前らが一緒に登校しねぇとかマジ珍しすぎだからビビったわー」
「うん…今日はアキの方が用事あったみたいで」
喧嘩じゃない、とケンジは自分に言い聞かせる。そして少しだけ視線を股間に向ける。
(チンさんも…あれからずっと………ううん、元々チンコが喋るのがおかしいんだ!あれは夢だったんだ!)
「じゃあさ、今日放課後一緒にカラオケ行かね?」
「へ?」
森山の唐突な誘いにケンジは間抜けな声を出した。
「だってお前いっつもアキと直帰するしさぁ。ケンジと遊んでみてぇってやつもいるし、アキと一緒じゃねーなら来いよ」
まるで森山の言い方はアキを嫌悪するような物言いで、ケンジはピクリと反応した。そんな森山に同調し、呼応されたようにいつもケンジに話しかけてくれるクラスメートたちが森山とケンジを囲む。
「いっつもアキに束縛されてんじゃん、たまには羽も伸ばしたいだろ?」
「そうそう、ケンジは普通なんだけどなぁ」
「なんか俺らってすっげぇ敵視されてるよな、須加尾に」
「わかる!俺もケンジに話しかけただけで須加尾に睨まれたし!マジあの顔だしチンサム起こしちまったよ!」
段々とアキの影口になりつつあるのに、チンさんもピクリと反応した。その前にケンジが机をバンっと叩いて立ち上がり森山たちを涙目で睨んだ。
「…アキは………アキはそんな奴じゃない!もっと、本当は、もっと優しい奴なんだよ!」
唐突なケンジの大声に教室にいる全員がケンジに注目した。すると消沈してたチンさんも、何かに気がつくようにそっと顔…頭をあげた。
「賢二郎…お前………」
「お前らはアキの何知ってるんだよ!あんなクールな顔してても実はすごく寂しがりやで、めっちゃ絶倫だし、理数系なんて赤点ギリギリだし、天然なところもあるけど…それでも………それでも俺はアキが好きだ!」
顔を真っ赤にして叫んだケンジは、顔をあげることなく全速力で教室を飛び出した。
「賢二郎!お前よく言った!それでこそ男だ!」
チンさんはケンジに天晴 れを送る。しかしケンジはそんなチンさんの称賛に応答することなくひたすら校舎を走った。
たどり着いたのは昨日アキと致した倉庫状態の物理準備室。バタン、バタン、とドアを閉めてドアに背を預けながらズルズルと座り込む。
「はぁ、はぁ………」
「賢二郎、大丈夫か?」
チンさんは呼吸を必死に整えるモヤシ体力のケンジを心配するが、そのテレパシーにケンジは気づかなかった。だからなのか、罪悪の涙がボロボロと溢れる。
「チンさぁん…アキぃ…ごめんなさぁい………俺が、俺がちゃんと…ちゃんと言わないからぁ…グスッ」
今更になってケンジは気がついた。チンさんは背中を押してくれていたこと、アキは言葉を待っていたことを。
「賢二郎、お前の気持ちは…きっとアキに伝わってるはずだ」
チンさんはケンジの方を向いて嬉しそうに呟いた。チンさんが動いていることにやっと気がついたケンジは、泣きながらチンさんを取り出した。そしてしっかりとチンさんと目を合わせる。
「チンさん…ごめんなさい………チンさんのいう通りだった…俺がちゃんと言わないから…俺がアキを信じられてなかったから…アキも不安だからセックスするんだよな………」
「そうだ。お前は肝心なことは言わない、自分を押さえつけてしまうところがあるだろうが。でもな、顕孝はそんなことでお前を嫌いになったりしねぇよ。信じてやれ」
「アキが…アキがあんな風に言われるの…俺、俺いやだよ…!」
「それも顕孝にしっかり伝えてやれ、そろそろ…」
ガラッ
勢いよく扉が開くと、真後ろには息を切らせて必死な形相になっているアキが立っていた。
「ケンジ…っ!」
アキはケンジを飛びつくように抱きしめた。ケンジもすぐにアキに縋って抱きしめ合った。
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