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第20話

月日が流れるのは早く、草木は色づき、夕方になるとあっという間に陽が落ちて、秋の気配を感じるようになっていた。 景と話したあの夜から、もうすぐ二ヶ月が経とうとしていた。 案の定、景から連絡が来る事は無かった。 特に気にしてはいなかった。社交辞令なんていくらでもある事だ。 きっと、俺と会って話した事さえも忘れてるんだろう。 景と実際に話したあの日以降、テレビや雑誌で今まで以上に彼を目にする事が多くなった。 今年ブレイク間違い無しだから、いろんなメディアに出ているのは当たり前なんだけど、そういうのをシンクロニシティというらしい。 少なからず景という存在は、俺の脳みそに多大な影響を与えたようだ。 景を見る度に、本当にこの人と話したのかと、夢の事のように思えた。 しかし今でもはっきり覚えている。景の仕草や表情、砕けた話し方。 景から突然の連絡が来たのは金曜日の夜だった。バイト先の飲み屋が嵐のように忙しく、ようやく合間をぬって店で休憩している時だった。 あまりにも突然すぎて、スマホに表示された、藤澤 景という名前を見て困惑した。 直ぐに出る事が出来なかった。出なければ、切れてしまう。 そう思っているのに、指がボタンをなかなか押さない。 緊張か、それともやっと連絡が来た安堵感からか。 とりあえず一呼吸してから電話に出た。 「もっもしもしっ?!」 『あ、修介。今大丈夫?久しぶり』 電話越しに聞こえてくる、彼の低くてセクシーな声。 実際会って話した時の声よりもまた一段と低く聞こえた。 「あ……うん。久しぶりー」 俺はバックヤードに一人でいるから、誰にも聞かれる訳ではないけれど、体を縮こませて左耳に神経を集中させる。 『ごめんね、ずっと連絡しようと思ってたんだけど、あの後また忙しくなっちゃって。やっと一段落したんだ。元気にしてた?』 「えぇっ?!」 俺に連絡しようとしてくれてたんだ。 社交辞令なんかじゃなかった。 俺の事、忘れてなかった。 なんだか嬉しくて、顔がにやけてしまう。 『どうしたの?』 「あっ、何でもない!元気にしてるよ。最近、テレビとかたくさん出てるの観てたから、忙しいのかなと思ってた」 景は、最近の事について教えてくれた。 今撮影しているドラマ。今度海外へも行く事。 あの飲み会で二人で話した時のように、誰も知らない彼のプライベートの秘密を自分と共有してくれているみたいでワクワクした。 時間が過ぎるのはあっという間だった。 そして一瞬、会話が途切れた時。 『それでさ修介、今度一緒にご飯でも行かない?』 「えぇっ?!」 また叫ぶと、途端に胸が高鳴った。 また、イケメンの景に会えるんだ! 「うん、行く行く!景の予定に合わせるよ。翔平にも訊いておくからさ!」 そう言うと、景はなぜか黙り込んでしまった。 少しの間、沈黙が流れる。 え、俺なんか変な事言った? そう不安になっていた時。 『……あいつは抜き。二人で会おうよ』 え? えーーー? 意外だった。まさか二人でだなんて。 『あいついると煩いんだもん』 あ、そう言う事ね。 「オッケー。じゃあ、予定また後で連絡しておくね」 少し話してから電話を切った後も、ニヤニヤが止まらなかった。 芸能人とご飯に行けるなんて、友達とか家族に相当羨ましがられるだろうし、一生の思い出になるかもしれない。 バレると面倒だから翔平には内緒ね、と釘を刺されたから、言いふらしたい欲をグッと抑えながら、俺は上機嫌でスケジュールを確認した。

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