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第36話
『修介、そっちの調子はどう?翔平、迷惑かけてない?』
「あはは。大丈夫。今日は飲みすぎ注意やでってちゃんと言うたから」
景はいつもの調子で俺に話しかけてくれる。
まだ仕事中だけど、合間を縫って電話を掛けてきてくれたらしい。
少し酔いもあるから、そんなに可笑しくもないのに声に出して笑ってしまう。
嬉しかった。こうやって電話してきてくれて。
本当はここにいてくれたら、もっと嬉しかったんだけどな。
数分話した後、電話を切ってくるりと翔平の方に体を向き直した。
すると翔平は、まるで獲物を捕らえようと陰でひっそりと佇む動物のように、目を細めて俺の事をジッと睨んでいた。
「な、何?」
その顔に耐え切れず吹き出しても、翔平はその表情を崩そうとしないから、俺も何故か同じような顔を作って、ググッと二人で睨み合った。
そのまま膠着状態が続く。
何馬鹿な事してるんだろうと思いながら続けていたら、翔平はパッと真面目な表情を作った。
「お前、景の事好きでしょ?」
なんでそんな事を訊くのにあんな怖い顔をしていたのか。
「……うん、好きやけど?」
「ちげー!友達としてじゃなくて、恋愛してるって意味でだよ!」
「……は?」
「景と話してるお前……なんかお花とかハートとか飛び散ってたぜ。恋する乙女のように」
「……はっ?!」
俺は思わず素っ頓狂な声をあげた。
なんだかとんでもない事を言われている気がする。
俺、そんな風に見えていた?何故?
ではここで、最近の俺について少し考えてみよう。
こうやって電話が来るとパッと気分が良くなるし、無かったら景の事をなんだかずっと考えてモヤモヤしてしまう。
テレビや雑誌で彼を見る度に胸が軋んで、会える日を心待ちにしている自分がいる。
スマホで景の動画を探して観るのが趣味になって……
とりあえず、今の俺は全部景で出来ている。
……あれ、こういうの、何て言うんだっけ?
「あ〜あ。好きになんなよって言ったのに、好きになっちゃったねー」
翔平は茶化すように言うから、カッと体が熱くなる。なんだか指先も震えてきた。
俺は薄笑いを浮かべながら首を横に振り続けた。
「……なってへん……なってへんで〜?!」
咄嗟に、日本酒が入ったお猪口を持ち上げて、満タンに入った液体を一気に体の中に流し込む。
「あーあ。ムキになってんじゃんよ。認めろよ」
「いや、違うねん。この好きは翔平と同じみたいな好きで……いい人やから好きとかの好きで……決してどうこうしたいって訳じゃ……」
ブツブツ言って自分に言い聞かせるけど、そんなの嘘だ。
だってさっき電話の最中に思ったではないか。
このままこれからも、この人と一緒にずっとこうしていたいって。
アルコール度の高い酒を一気に飲んだせいで、頭と体がだるく、視界が霞んでくる。
心臓がバクバクと言って、手の平をおでこに押し当てて冷まそうとするけれど、顔も手も同じくらい熱を持って、火傷しそうな程だった。
翔平はもう何も言わず、俺の一連の行動を静かに微笑んで見ながら、レモンサワーを飲んでいた。
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