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第43話

「南……分かったから、渡したら帰ってよ」 景は南さんを連れて、リビングから出て行った。 取り残された俺はフラフラと歩いてソファーに浅く座り、膝の上に両手を乗せて、俯いた。 書道半紙に一滴の墨汁が垂れてジワジワと広がって行くさまのように、俺の胸の中も何か重量のあるドス黒いもので侵食されていく。 南さんは昨日この部屋に来て、ピアスを取らなくちゃならないような用事をしに、寝室に入った。 景は、セックスは一番愛してる人とだけするべきだよとか自信満々に言ってたくせに、昨日、もう好きでもない相手としたのかな。 景だって、結局は瞬くんと一緒だ。 そうやってあっちから寄ってくる人を利用して、自分の蜘蛛の巣に引っ掛けてとりあえずキープしておくんだ。 景の長い指が、身体の表面を滑り落ちるところを想像した。 俺の頭や髪に触れた大きな手が、南さんの身体をなぞって————.... なんだか気持ちがぐちゃぐちゃだった。 景に触れられたいのに上手くいかないし、女の子になれば景は俺を彼女にしてくれるって言ってる。 あんなに偽りのない、真っ直ぐな景だと思っていたのに、平気で俺に嘘をついていた。 一体どれが俺を苦しめているのか分からない。 とにかくここから早く逃げ出そう。そう思った。 拳を作りグッと握りしめてから勢いよく立ち上がり、壁に掛けてあったコートに袖を通す。 リュックを背負ったところで、二人がリビングに戻って来た。 俺の姿を見た景は目を見開いて驚き、何かを言おうとしていたけど、それより先に南さんが口を開いた。 「あれ?帰っちゃうの?」 「はい。お邪魔しました」 ペコっと一礼してから、二人の前を通って足早に玄関の方へ向かうと、景は慌てて俺の後を追ってきた。

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