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第45話 side景
「……修介っ……」
声は届いた筈なのに、修介は扉を閉めてしまった。
呼び止めたのは、なんだか泣きそうな顔をしていた気がしたから。
扉の向こう側から、バタバタと足音が遠ざかっていく音が聞こえたから、踵を返してリビングの方へ向かった。
部屋を覗くと、南はソファーに座って待っていた。悪びれる様子も無く、薄っすら笑みも浮かべていた。
「ごめんなさい。なんだか邪魔しちゃったみたいで」
「……もういいよ。コーヒーでも飲む?」
南は、うんお願い、と言って先ほど渡したエメラルドグリーン色のストーンが着いたピアスを手探りで耳朶にし始めた。
僕はコーヒーメーカーのフィルターに挽いた豆を入れて熱湯を注ぎ、液体をカップへ注いで、南の座るソファーの前のローテーブルに置いた。
「ありがと」
僕も南の隣に座った。一人分程の隙間を空けて。
すると南はこちらにすかさず寄ってきて、僕の太腿の上にスッと手を置いてきた。
それを見て、修介とのやり取りが思い出された。
人から拒絶されるとか、嫌われるとか、そんな役は沢山演じてきたし、この界隈で嫌というほど思い知らされてきたから慣れていた筈だ。
でも修介に手を払い除けられた瞬間、針が突き刺さったかのように胸が痛くなった。
例えば死別のシーンなどはそれなりに気持ちを作って役にのめり込むから、感情移入して胸が痛くなる事はあるけれど、それとはまるで比べ物にならない程だった。
大学の課題なんて嘘までついて帰るなんて、余程僕らの事が迷惑だったのだろう。
それとも、呆れたのか。
修介といると楽しいし、ありのままの自分でいられる。
楽しそうに笑ってくれている修介を見て、きっと同じ思いなんだろうと、勝手に解釈をしていた。
けどあの態度を見る限り、もしかしたら、僕とつきあっているのは面倒だと思っていたのかもしれない。
図々しく誘う僕を断れなかっただけで、無理して合わせてくれていたのかもしれない———……
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