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第53話

震える手で、恐る恐るその番号に電話を掛けるけど、コール音が四回鳴っても相手は電話に出なかったから、耳からスマホを離して電話を切った。 出なくて良かったかも。 ちゃんと心構えが出来てなかった。 もし今、彼が出ていたら何て切り出すつもりだったんだろ、俺。 はぁーっ息を吐くと白い靄が口から広がった。 寒い。走ってる間は暑いほどだったのに、汗が引いたからか、急に肌寒く感じて来た。 コートに付いているフードを頭に被り直して、スマホを手に握ったまま、遠くで瞬く星を見上げていた。 しばらくしてから、bbbbb...と、掌から振動が伝わった。 パッと反射的にスマホの画面に出たその名前を見ただけで、ジワっと目に涙が少しだけ滲んで、喉の奥がつまった。 マンションに行った日から、めっきりこの名前が表示される事が無くなって本当は寂しかったけれど、またこうやって電話をくれるようになるといいな、と思いながら俺はボタンを押した。 「……もしもし」 『あ、もしもし修介。ごめん、電話取れなくて。久しぶり』 景はまるで変わっていなかった。低音の品位ある声も、久しぶり、と言うところも。 「景、あけましておめでと……」 何から切り出すかを考えた結果、これに至った。 もうすっかりお正月気分なんて抜けている頃だけれど、景はフッと笑ってくれた。 『おめでとう。今年も宜しくね』 今年も会ってくれるの?良かった。一先ず安心かも。 いろんな事を話したいのになかなか言葉が出てこなかった。 長い沈黙が流れて、その静寂を切り裂いたのは景の方だった。 『修介、本当にごめん。あの日、色々と嫌な思いをさせちゃって』 俺が何か言う前に、景の方が先に謝ってしまった。 本当は俺が悪いのに。 「そんな事あらへんよ。ごめん、俺もすぐ帰っちゃって」 『電話してきてくれて嬉しいよ。もう二度と話せないかもって思ってたから』 「は?そんな事あるワケないやろ?」 『あ、そういえば関西弁聞いたの、久しぶりだな』 そうそう、こんな感じだった。 噛み合ってるようで噛み合ってない、景は話を聞いてるのか聞いてないのかコロコロ話題を変えて、でもそれについていける俺。 安心した。やっぱりこの人の醸し出す雰囲気は好きだ。 顔の硬くなっていた筋肉が解れていくのが分かった。 『バイト、さっき終わったの?』 「うん、ラストまで」 『そっか。本当に大変だね、こんな時間まで。もう家にいるの?』 「……今、さくら小児科病院の前におんねん。知ってる?」 『さくら?うん、知ってるよ?小さい頃、そこに通ってたし……なんでそんなところにいるの?』 「へへ。聞いてくれる?ウケるで。俺、酔っ払いの男に腕掴まれて、キスされそうになったんよ。蹴り入れて逃げて来たけど、逃げられなかったら襲われてたかも」 『えっ?!』

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