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第99話
「ふざけんなや!どんな気持ちで来たのかって、そっちが勝手に来ただけやろ?誰も来てくれなんて頼んでへんし、心配なんてしてもらわなくても結構やわ!」
「ちょっと、痛いんだけど。何怒ってるの」
「そりゃあ怒るやろ!勝手にキスなんかしといて……佐伯紗知子と付き合うてるくせに!」
景はハッとした顔をさせて、すぐにかぶりを振った。
「付き合ってないよ。ご飯食べに行って、その帰りにそういう風に見えるように勝手に撮られただけで」
「それで?夜の街に消えてったんやろ?景が佐伯紗知子の手を引いてタクシー乗って。そのままマンションにでも連れ込んだんやないの?」
「は?そんな事してないよ。手を引いたのは佐伯さんがヒールの高い靴を履いてて転びそうになってたからで。タクシーに乗った後、彼女の家に送り届けたよ」
「へぇ。まぁ、口では何とでも言えるしな」
「……何?信じられないの?僕の言う事が」
景は心外だと言わんばかりの表情で、俺をじっと睨んだからその恐怖に押しつぶされそうになった。
景が嘘なんか吐くはずないって分かってる。
完全に八つ当たりだ。子供みたいに。
歯跡が残りそうなくらい、グッと両唇を噛んだ。ブレーキをかけなくてはならないのに、壊れた蛇口のように荒い言葉がどんどん溢れて出てしまう。
「信じられへんよっ!俺の気持ちなんか無視して、自分の思い通りに行かへんからって勝手に突っ走って!自分の考えを人に押し付けられても迷惑やわ!」
「何それ。僕が言ってるのは」
「うっさいねんっ!俺が瞬くんとやり直そうがセックスしようが、景には関係ない事やろ?俺の事なんてもうほっとけや!」
そう言うと途端にシンと静まり返った。
景は何も言わず、口を結んで俺を静かに見下ろしていた。
興奮のあまり、顔と体が熱くなり、息が上がっているのにようやく気付いた。
何度か肩を上下させて冷静になった途端に、目の奥がじんわりと熱くなってきたから慌ててしまった。
あ、やばい、俺泣く?
そう認識するよりも先に瞳に涙が溜まって、目の前の景が途端にボヤけて滲んでいった。
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