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第100話
「……修介」
名前を呼ばれると、心臓が手でぎゅっと鷲掴みされたように痛くなった。
ますます涙が抑えられなくなって、ついにポロポロと溢れてしまった。
こんなの、知らなかった。
瞬くんに二番や三番って言われた時は確かにショックだったけど、涙なんて出なかったのに。
やっぱり無理なんだ。
この人の心の中に、俺はいないんだ。
そう思っただけで、こんなにも涙が止まらないなんて。
それぐらい、景の事を好きになってしまったんだ。
こんな事になるなら、景の事、好きにならなければ良かった。
こんな事になるなら――
「景となんて……出会わなきゃよかったよ……ッ」
溢れる涙を乱暴に手の甲で擦って俯いた。
拭っても拭っても、涙が止まらない。
男なのにこんなに泣いて羞恥でいっぱいになったけれど、涙よ止まれと願っても一向に止まる気配は無かった。
「それ、本気で言ってるの?」
景の声がまた一段と低く強まったからビクッと背筋が反応した。
顔は見なかったけれど、その声は怒りに満ち溢れていたから、きっと逆鱗に触れてしまったのだろう。
追い詰められた俺は窮鼠猫を噛む叫びを震える声で景にぶつけた。
「あぁ本気やで!景になんて会わなきゃこんな気持ちにならずに済んだんに!」
「何なのそれ。僕は君の事が心配で……っ」
「だからっ、余計な心配してもらわなくても結構や言うてんねん!なんで景だけには本当の事言えへんかったかと思うんよ?どう思われるか不安で、嫌われたくなくてずっと悩んでたんに、何で俺の気持ち分からへんくせに人の事ばっかり責めるんよ?俺ずっと景の事が……」
そこまで言って、ハッとした。
‘‘好きだったのに’’
次に出そうになる言葉を慌てて飲み込んだ。
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