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第101話
「僕の事が、何?」
景は眉間に皺を寄せて、また責めるかのような声を発した。
俺はまた瞼を乱暴にゴシゴシと擦って、このグチャグチャな気持ちから解放されたくて、この場から早く逃げ出したい衝動に駆られた。
「……もうええ!景なんて大嫌いや!ええか、もう連絡も取らへんからな!景なんて絶交やで!」
「はぁ?なんでそうなるの。ちょっと落ち着きなよ」
「落ち着いてられるかっアホ!もうええ!景なんてなぁ、景なんて……」
そのままギリギリと睨み合って膠着状態が続いてから、俺は捨て台詞を吐いた。
「……今度出るドラマ、大コケすればええんやっ!」
もうちょっとマシな台詞は無かったのかと呆れたけれど、すぐにその場から駆け出した。
「それは関係ないでしょう!待ちなさい!修介!」
景の呼び止める声が聞こえたけど、俺は振り向かずに、更にスピードを早めて来た道を全速力で走った。
走りながら涙を拭って、今あった出来事をもう一度整理しようとしたけど、俺の馬鹿な頭じゃとても整理しきれなかった。
とりあえず今確信した事。
もう、終わりにしよう。俺の恋は。
景にはもう二度と会わない。絶交って言ってしまったし。
俺が勝手に好きになって、勝手に勘違いして、勝手に怒って。
自分勝手なのは俺の方なのに、景のせいにしてしまった。
でももう、今更遅い。景に謝る事も出来ない。
これでいいんだ。やっぱり、無理だったんだ。友達として側にいるなんて。
そうだ、景とは会わなかった事にしよう。
この約半年間の記憶を消してしまえばいいんだ。夢であったと思えばいい。
もうだいぶ涙も枯れてきた頃、もう一度瞼を手で拭うと、手首に不自然な凹みがあるのに気付いた。
景の指輪の跡だった。
こんなになるまで手首を掴まれていたなんて、とまた怒りに満ちながらアパートの方向へ走った。
部屋に帰ると、瞬くんはここを出た時とまるで変わらずにソファーベットの上でぐっすりと眠っていた。
良かった、と思った。
こんな顔見られたくなかったから。
もう寝てしまおうと、瞬くんが寝るはずだった布団を敷いて、頭からすっぽり掛け布団をかけてまるまった。
寝付こうと思っても、睡魔なんて襲って来なかった。
景のあの柔らかく火照った唇が、どうしても頭から離れない。
少しでも気を抜けば、すぐにでも身体中があの快楽を思い出しそうになったから俺は頭を抱えた。
(景のアホ!人の気も知らんでキスなんかしてっ何考えてんねん!)
忘れよう。
彼と俺は出会ってない。夢、夢。
あぁ、そもそもなんで出会ってしまったんだっけ。
そもそも、翔平がバイト先に入って来なければ景に会う事なんて無かったんだ。
いや、その前に俺がこっちに来ていなければ。
そもそも、瞬くんと付き合って無ければ。
いやいや、その前に瞬くんと同じ高校に入らなければ好きにならなかったのに。
いや、その前に俺が男が好きじゃ無ければ。
いや、その前に俺なんか生まれなければ……
(無限ループやっ!)
俺はギュッと目を閉じて、この現実から逃れるように無理やり眠りについた。
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