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第102話 side景
修介の走る後ろ姿を見ながら、しばしその場に呆然と立ち尽くした。
修介の姿がこの目で確認できなくなったところで、僕はようやく運転席のドアを開けて車の中へと体を滑り込ませた。
とりあえずエンジンをかけてエアコンを付け、冷えた身体を温める。
車内にかかっていたラジオが煩わしくてすぐに消し、ハンドルを握りながら前のめりになって俯いた。
「はぁ……」
長めのため息を吐いてから、今の出来事を一旦整理させようと目を閉じた。
何故僕は、修介にあんな事をしてしまったのか。
確かに、逃げられないという事を分からせる為に少し脅しにも似た態度で接してしまったけれど、キスなんて本当にしなくても修介は十分分かり切っていた筈だ。
あの時僕は、何を考えていた?
修介の細すぎる手首は、僕の手中ではあまりにも無力で、自由を奪うなんて容易い事だった。
気付いた時にはもう、唇を奪っていた。
修介の言う通り、彼が遊び人のあいつとまたやり直そうがセックスをしようが遊ばれようが、僕には関係のない事だし、僕がとやかく言う事では無い。
でも、修介があいつに何かされるかもと思っただけで、血が騒ぐような、動悸が激しくなるような、醜悪の感情が僕を支配した。
修介がもし瞬って奴にされるくらいなら、僕が奪ってしまおうと思ったんだ。
何故、そんな事を思った?
これじゃあまるで、僕が修介の事……。
《俺ずっと景の事が》
その後に続く言葉は、何だ?
僕はもう、気付いているのかもしれない。その言葉に。
自惚れかもしれないけれど、もしその言葉が正解だったら、僕は今までとんでもない事をしていたんじゃないのか?
修介が女の子だったら僕の彼女にしていたのに。
僕はいつかそう言った筈だ。
それを言った後、修介はあからさまに落ち込んだ表情を見せていた。
あの時はよく考えもしなかったけれど、今カチリとパズルのピースがはまったように納得がいった。
僕はこれから、どうすればいい?
彼をあんなに泣かせてしまう程嫌な思いをさせてしまって、絶交とまで言われてしまった。
後悔しても時間は元に戻らないんだよ、なんて大口を叩いたくせに、自分の不甲斐なさにほとほと呆れる。
額に手を当てて髪をかきあげたら、二本の指に嵌めたシルバーリングが肌に当たった。
手の平を見つめながら、彼の腕を相当強く掴んでいたからきっと痛かっただろう、と今更ながら気付いた。
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