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第103話

「……すけ……修介!」 ユサユサと身体を揺さぶられて目を覚ました。 瞼を持ち上げると、すぐ横で瞬くんが正座していた。 カーテンの隙間から陽の光が漏れていて、あぁ、もう朝か、と思い時計を見ると九時を回っていた。 「あぁ、おはよう瞬くん……」 俺は寝ぼけながら目を擦り、片手をついてゆっくりと上半身を起こした。 無限ループを繰り返しているうちにどうやら眠れたようで、予想以上に寝てしまったらしい。 「……どうしたん?そんな怖い顔して……」 瞬くんが俺の顔をじっと見つめたまま、膝の上で拳を作っていたからそう声をかけた。 瞬くんはもう、昨日の酔っただらしない顔では無く、ぱりっとしたいつものイケメンの顔に戻っていた。 「修介、俺、酔った勢いもあったかも知れへんけど、藤澤 景にとんでもない事言うてしまったの思い出した……悪ふざけしてもうてゴメン……」 「あぁ……」 こっちに来てから瞬くんは俺に謝ってばかりだな、って少しだけ可笑しくなった。 「瞬くん、随分酔っ払ってたなぁ?別にええよ。お陰で、目が覚めたんよ」 「……え?どういう事?」 「藤澤 景の事、好きでいてもしょうがないってちゃんと分かったから。瞬くんが言うてくれたから諦めついたんよ。もう連絡も取らへん。分からせてくれて、ありがと」 「……俺のせいで、何かあったんか?昨日、夜中に一回起きたんやけど、修介部屋にいなかったのは何か関係あるんか?」 「ううん、別に瞬くんのせいやあらへんよ。俺が悪いねん。男が好きって事、いつまでも秘密にしとって景の事怒らせてしもうて。でももうええんよ。景はやっぱり、俺の事なんて友達にしか見えてへんねん。好きでいてもしょうがないんよ」 俺は明るく笑ってそう言ったけれど、瞬くんは肩を落としてしょげているようだったから、瞬くんの肩をポンポンと叩いた。 「なんやねん!昨日まで見込みないから諦めろとか散々言うてたくせに!酔いで覚えてないんか?やっぱり俺とやり直したいとか言うたのも冗談なんやろ?」 あんなに悩んでしまって損した。 やっぱり酔った人の言う事なんて信じちゃいけない。 「いや、覚えとるよ。修介に言った事全部。あれ、本気やで?」 なんだか瞬くんの声が真剣だったから、俺は肩に置いていた手をゆっくりと下げた。 「俺、修介と久々に会えてホンマに嬉しかったよ。会いに来て良かったなぁと思うて。今日、ホンマに帰りたくなくなってしもうたよ。もう一度訊くけど、俺とまた、やり直せへんかな?」 あれ、なんだろう、この気持ち。 俺、今嬉しい。 瞬くんが冗談で言ってるんじゃ無かったって分かって。 て事は、俺、瞬くんの事が好きなんだよね? 景よりも、好きなんだよね? 言い聞かせかもしれないけど、確認するように何度も頭で繰り返した。 そうだ。人には諦めが肝心の時もある。 いくら手に入れたくても入らないものは入らないし、人の気持ちを動かす事なんて簡単じゃないから。

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