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第114話

途中、俺はトイレの為席を立った。 話が弾むとどんどん酒が進んで、酒が進むとどんどん陽気になって話が弾む。 卵が先か、鶏が先かの状態だなーとフワフワする頭で考えながら用を足して洗面所で手を洗っていたら、背後から声を掛けられた。 「修介」 ふと顔を上げると、鏡越しに瞬くんと目が合う。 きっと俺の後をついてきたんだと思ったら少し恥ずかしくなった。 「あ、瞬くん」 平然を装い、水道の蛇口を捻ってからハンドドライヤーで手を乾かしてから振り向くと、思った以上に俺のすぐ側にいてドキッとした。 瞬くんに見下ろされる形になっていて、もしかしてこの前みたくおデコにキスをされるかも?と不意に思ったけど、瞬くんは唇ではなく手をこちらに寄せて、俺の手首を掴んだ。 その行動にビクッとして、この前のようにまた酔っているのかと思ったけれど、瞬くんは今日はノンアルコールの酒しか頼んでいなかったな、と思い出す。 俺は真っ直ぐ見据える瞬くんの顔をポカンと見上げた。 「どしたん……?」 「返事、訊いてもええ?」 今、こんな場所で?と笑いそうになったけど、瞬くんは真剣な眼差しだったから、何度か瞬きを繰り返してから、少し遠慮がちに告げた。 「あ……うん。俺、いろいろと考えたけど、瞬くんと付き合うてみようかなぁと思うてるんよ……」 「えっ!ホンマに?!」 瞬くんは目を見開いて驚きの声を上げる。 まさかそんなに驚くとは思っていなかったから、俺は堪らず笑ってしまった。 「はは、ホンマやで。……でも正直、景の事完全に嫌いになれた訳やないねん。瞬くんの事はホンマに好きなんやけど、ふとした時に景の事思い出したりしてしまって……早くきれいサッパリ忘れるように努力するから……」 こんな気持ちなのに付き合ってだなんて、なんて図々しいのかと羞恥で顔を赤くさせながら俯いていると、瞬くんの手がさらに強まった。 「ええよ、それでも。俺と楽しい思い出沢山作ってって、上書きしてけばええやん。修介の中から藤澤 景がいなくなるように、俺めっちゃ頑張るで?」 瞬くんの優しさに、暖かさに、胸が高鳴った。 きっと、俺たちは上手くいく。 もう一度恋をするんだ!瞬くんと! 「あ、ありがとう瞬くん!宜しくお願いしますっ!」 高二の春、告白をしてOKをもらえた後の台詞をもう一度言うことになるなんて思いもよらなかった。 「こちらこそ宜しく、修介。俺、ホンマに大事にするから。……今日、一緒に帰れる?」 瞬くんはニコッと歯を出して笑って顔を傾けたから、またあの超絶イケメンが頭を掠めたけれど、すぐに頭の中でそれを追い払ってから何度も頷いた。 あぁ、そんな事言われて、俺、本当にもう一度瞬くんの彼氏になったんだな、と目を細めながらニンマリと笑った。 二人で席に戻ると、瞬くんはいきなりみんなに向かって交際宣言をしたから、俺は顔がカーッと熱くなった。 友達も大分酔っていたから、オーッ!!と雄叫びをあげて、おめでとう、と言ってくれた。 俺は照れながら元いた席に戻って、向かいに座る友達に茶化されながら笑っていたけど、隣に座る祐也だけは、騒ぐ事はせずに俺の顔を見つめながらビールを飲んで、静かに何かを考えている様子だった。

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