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第117話

瞬くんの家の前に着いてからようやく繋いでいた手を離して、瞬くんが鍵を回して中に入った。 お父さんは出張中で、五個上のお姉さんは結婚して家を出ているから、お母さんと二人でこの家にいるのだと言う。 一階の奥の和室で寝ているというお母さんを起こさないように、お邪魔しまーすと小さく言って玄関を上がり、二階にある瞬くんの部屋に入った。 ぐるりと中を見渡すと、ああ、こんな感じだったと思い出した。 家具の配置や物は殆ど変わっていなくて、唯一変わっていたのは本棚だった。 ベットの向かいにある本棚は、あの頃の倍近くの大きさになっていて、天井の高さまである。 あの頃は殆どの棚が漫画で埋め尽くされていた気がするのに、今はパソコン関連やデザイン系の書物が半数を占めていた。 「修介、結構飲んだん?もし飲み足りなかったら下からビール持ってくるけど……」 「あぁ、ごめん。飲み放題やから調子に乗っていろんなのに手ー出してしまって、ちょっとだけボーっとしとるから、もし水とか貰えたら嬉しいな?」 「うん。じゃあちょっと待っとって」 瞬くんがパタンと扉を閉めて部屋から出て行った途端、勢いよくしゃがみ込んで両手で頭を抱えた。 (待って……!俺、今更やけどめっちゃ恥ずかしくなってきた!) 瞬くんに言われるがまま大人しくついてきてしまったけど、ろくに心構えが出来てもいないのに安易に考えていた先程の自分を呪った。 チラリとベッドに視線を移す。 綺麗にメイキングされているそれを見て、もしかして瞬くんは今日、はじめから俺を家に連れ込もうとしていたんじゃ無いかと勘ぐってしまう。 「と、とりあえずコート脱ぐか……」 一人で確認するように言葉に出してからリュックを下ろしてコートを脱いで折りたたみ、部屋の隅に置いた。 部屋の真ん中あたりに正座して、もう一度部屋の中をぐるりと見渡しながら、高校の頃ここに来た時の記憶を手繰り寄せた。

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