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第120話

「……あっ、瞬くんは、今日は飲んどらんのっ?」 どうにか話題を変えて、羞恥でいっぱいになっているのを誤魔化そうと作り笑いをしながら俺は訊いた。 「うん、今日はノンアルにしといた。だってまた酔って迷惑かけたらかなわんやろ。修介の返事だってちゃんと聞かなあかんなぁ思うたし」 瞬くんは伏し目にして煙を吐き出すと、今度は俺の頭に手を置いて撫で始める。そのまましばらく撫でる手を止める事は無かった。 (アカン、どうしてもそういう流れになってしまう!) 俺はフィッと首を動かして前を向き、膝の上に顎を乗せて俯いた。 とてもじゃないけど、そんな綺麗な顔と何秒も見つめ合っていられない。 瞬くんはそんな俺の心中を察したのか、嬉しそうに話し始めた。 「修介、俺との事、ちゃんと考えてくれてありがとう。ホンマに嬉しいで。もしかしたら無理かもなぁって思ってたから。ここに来てくれたって事は、そういう風になってもええって思ってくれたって捉えてもええんかな?」 シンとした部屋に響く、瞬くんの声。 今の俺の頭には、それは心地よく響いて。 頭の中が炭酸水のようにパチパチと音を立てて弾けて透明になって、何も考えられなくなった。 「あの……俺……」 何か気の利いた事を言おうとしたけど、どもりがちに声を発する事しか出来なかった。 「まさか、ホンマに朝までゲームやるつもりやったん?」 「えっ!いや、そんな事は」 「じゃあ、もう分かっとるな?」 気付いた時にはもう、うん、と頷いていた。 それを合図に、瞬くんはテーブルの上にあった灰皿でタバコを揉み消すと、頭を撫でていた手を止めて、後頭部を包んで俺の顔を抱き寄せた。 見ると、瞬くんは俺の目の下辺りに視線を落としていた。 あ、俺の唇を見てる。 そう認識してからすぐに瞬くんの顔が降りてきたから、自然と瞳を閉じた。

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