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第125話

部屋を暗くされて、瞬くんの表情をうっすら認識出来るくらいに目が慣れてきた頃には、彼は俺の顔の横に両手をついて体重を支えながら、俺を見下ろしていた。 瞬くんは穴があきそうなほど俺を見つめていて、あまりの羞恥に逃げ出したくなったけどそんな事は出来ないから、代わりに目を閉じて瞼の上で手の平を上に向けて押さえて、この熱くなった顔を見られないようにした。 瞬くんは頬や額に優しくキスの雨を落としてくれる。 彼が顔の角度を変える度、シーツの擦れる音や水っぽい音が自分の耳を刺激して、より羞恥心が倍増した。 (熱い……ッ) 顔が、身体が、熱湯を注がれたみたいに熱くなる。 予測できない瞬くんの動きに、両唇を噛んで漏れそうになる声を必死で耐えていると、顔を隠していた俺の手にキスをされて、それを両手で剥がされた。 目が合うと、彼は悪戯っ子のように笑った。 「変わってへんなぁ。そうやって顔隠すとこ」 「だっ、だって、恥ずかしいし……」 「かわええ」 ちゃんと見して。 瞬くんはそう呟くと、俺の両手首を軽くベットに押し付けて、いきなり俺の首筋を甘噛みした。 「――ッ!」 心構えが出来ていないのに思わぬ場所に触れたから、ビクッと身体が反応して、ゾクゾクと何かが沸いてくるのを抑えられず、自然と肩が丸まってしまった。 瞬くんの唇は、触れているか否かの繊細な刺激を俺に与え続け、飽きもせずに唇にキスをしたり、耳朶や首筋を甘噛みし続けた。 俺はまた目を閉じて、身体が蕩けそうになりながら考えた。 瞬くんの唇って、忘れてたけどこんなに薄かったんだっけ。 あと、なんだか口の中がほろ苦い。 例えて言うなら、カカオ多めのビターチョコレートって感じだ。 瞬くんには悪いけど、ちょっと苦手かも、このタバコの味。 甘党の俺は、甘い味のタバコの方が好みだな。 ――今、誰の事考えた?俺。 [修介] 途端に、あの日、泣いた俺を真っ直ぐに見つめながら俺の名前を呼んだあの人の幻聴に襲われた。 うるさいから、俺の頭の中から早く出て行って、お願い。 もう決めたんだ。瞬くんと一緒にいるって。 だからこういう事になってるんだ。 付き合っているんだから、セックスするなんて当たり前だ。 ちゃんと、好きなんだ。瞬くんの事。 [セックスは一番愛してる人とだけするべきだよ] 分かってるそんなの。 だから、これからしようとしているんじゃないか。 一番愛してる人と。 一番、愛してる、人と? 瞬くんはキスを落としながら片手を移動させて、俺の着ているスウェットの中に手を入れた。 長い指先が脇腹に直に触れた瞬間、俺はそのたくましい二の腕を掴んでいた。 その手が震えていたのに気付いたのは瞬くんの方が先で、服の中から手を抜いて、俺を潰さないようにゆっくりと上半身を起こした。 「……修介、泣いとるん?」 瞬くんの顔がぼやけて何重にも見えていた。 指摘されると、目と鼻先がますます熱くなって、涙は重力に耐えきれず、瞬きする度に目の端から頬を伝って溢れ落ちていく。 「ごめんっ、瞬くん……」 涙を手で拭いながら、俺は謝り続けた。 もう嘘はつけない。 だって今気付いてしまったんだ。 俺は、瞬くんの事が好きだ。 でもきっと、愛してない。 愛なんて事、完全に理解している訳じゃ無いけど、それだけは分かったんだ。 俺が本当に愛しているのは――...

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