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第124話 side景
あの時、修介にキスをする時。
怯える彼の顔を見て、何故かゾクゾクして、めちゃくちゃにしてやりたいと思ったんだ。
最低だ。
あの時の自分も、演技の最中なのにこんな事を考えている今の自分も。
修介は、抗っていた。
なのに僕は、この唇を止める事が出来なかった。
泣かせるほど、嫌な思いをさせてしまったんだ。
きっともう、彼は僕の電話には二度と出ない。
僕の事が大嫌いな彼の事なんて、もう放っておけばいい。執着しなければいい。
修介と出会った事や一緒に過ごした日々は、忘れてしまえばいいんだ。
……本当に?本当にそれでいいのか?
「――藤澤くん、台詞」
佐伯さんが、やっと聞こえるか聞こえないかの声を発して、ハッと気付いた時には川田さんの陽気な声が響いていた。
「どうした藤澤くーん!大女優を前に怖じけずいちゃったかー?」
「あっ……すみません!」
僕は体を起こして川田さんに頭を下げて謝ると、ガハハと豪快に笑われた。
「いいよいいよ。紗知子ちゃんも藤澤くんも凄く良かったよ。途中まではオッケーだから、その後からもう一回撮り直そう。藤澤くん、長い事休憩無しだったからね、疲れが出てるのかもしれないね。ちょっとだけ休んできて良いよ!」
「すみません、本当に……」
スタッフ達がパタパタと動き回る中、僕はため息をついて額に手をやりながら、しばらくそこから動けなかった。
そんな僕の後ろ姿を佐伯さんは不思議そうに見上げていた。
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