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第127話

「あの……ごめん、ホンマに。瞬くんの事、好きなんやけど……」 「ええよ。実は俺も、修介に謝らんといけない事あんねん」 視線をゆっくり瞬くんの方へ移すと、その黒目がちの瞳は少し潤んでいるように見えた。 瞬くんは一瞬目を合わせたけど、すぐに前を向いた。 「あの日、電話で藤澤 景にいろいろバラしたんは、酔った勢いとかやなくて、わざと言うたんよ。修介と付き合うてたって事とか、やり直そうって思ってるって事とか」 「……え?」 「酔ってたんは本当やけどな。分別つかないくらい酔ってたわけや無かったし、言ったらダメなんて事、はっきり頭では分かっとったんに、藤澤 景にわざと言うたんや。最低やな、俺。修介傷付けるんは、これで二回目や。藤澤 景と修介の仲、壊すつもりは無かったんやけど、結果的にそうさせてしまった。ゴメンな」 「え、じゃあ……あの朝、俺を起こした後のアレも演技だったんか?とんでもない事したの思い出したって、謝ってきたのも」 「うん。嘘」 全然気付かなかった。あまりにも自然で。 「傷つけてでも、俺んとこに来てくれるんやったらええなと思うてたんや。ごめん。付き合うてた先輩の事、ホンマに吹っ切れたんやけど、その穴を修介で埋めようとしてたんやな、きっと。お前の気持ちも考えんと」 瞬くんは「よっ」とテーブルの上の箱に手を伸ばして、今度は俺に確認せずにタバコに火をつけて吸い始めた。 俺は熱い液体にフーッと息を吹きかけて、恐る恐る淵に口をつけてカップを傾ける。 生姜の辛味と蜂蜜の甘みが同時に舌の上で混じり合って、美味しいな、と思った。 こんな女子力高い飲み物、瞬くんはいつも飲んでいるのかな。 「美味しい……」 俺が呟くと、瞬くんは紫煙を吐き出してニッコリと目を細めて笑って、明るく穏やかな声で言った。 「お前、頑張れよ。藤澤 景の事」 もう一度飲もうと唇を付けたけど、ハッとしてマグカップをテーブルに置いた。 「え、頑張るって?」 「そんなに好きなら、仲直りしてちゃんと告白しろよって言うてんの。さっき、ずっと藤澤 景の事考えとったんやろ?」 「……だって、俺と景が結ばれる事なんて120パー無いって言うとったやんか。それに、俺は今瞬くんと付き合うてるんやし……」 「バーカ。そんなに泣く程藤澤 景の事好きやのに、そんなんで俺と付き合うてもらっても嬉しくねぇよ。それにさ……」 瞬くんはそこまで言うと、火の付いたタバコを灰皿の隅にかけて、いきなり俺の服の中に手を入れて、脇腹あたりをゴソゴソし出した。

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