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第129話 side景

撮影をストップさせてしまい、頭が真っ白になって立ち尽くしていたけれど、慌てて川田さんの後ろ姿を追って謝りに行った。 川田さんは、いいから気にしないで!とまた豪快に笑って僕の肩を何度も叩いた。 僕達のやり取りが終わったタイミングで、宮ちゃんが大きめのカバンを肩に引っ掛けながら小走りに近づいて来る。 「景、どうしたのっ?台詞止まっちゃうなんて今まで無かったじゃん。体調悪い?」 「大丈夫、どこも悪くないから。とりあえず楽屋に戻る」 「うん分かった。煙草吸う?あと台本は?」 「台本はいらない。煙草は吸う」 宮ちゃんが重い防音扉を開けてくれて、スタジオの外に出てから長い廊下を歩いて楽屋へと移動した。 その間、宮ちゃんはテキパキと僕の煙草やいつも飲み慣れている味のミネラルウォーターのペットボトルを僕に差し出してくれて、楽屋の前に着くと立ち止まった。 「10分前になったら声掛けるから。頭の中ちゃんと整理しておきな?」 宮ちゃんは鋭い。 きっと分かっている。僕が演技に集中していなくて上の空だったんだって事。 でも、何も聞いて来ない。いつものように、顔に肉がついて柔らかそうな頬にえくぼを作って、僕に精一杯のサポートをしてくれる。 「ごめん、ありがとう」 宮ちゃんがノブを引いてくれて僕は中に入った。 ドアが閉まったのを確認すると、僕はヨロヨロとパイプ椅子を引いて座って脚を組み、煙草に火をつけて吸い始めた。 目の前にある鏡に映る自分の顔を見て、自分自身を思い切り睨みつけた後、紫煙を吐き出した。 最悪だ。 新人でもないのに、演技に集中出来ない俳優なんて話にならない。 例えどんな事情があろうとも私情を持ち込むなんて、この業界じゃ御法度だ。 川田さんは数多くいる監督の中では特に人当たりが良く優しいから笑顔でああやって気遣ってくれたけれど、普通はあんな事有り得ない。怒鳴られてもいいくらいだ。 折角佐伯さんが熱情的な演技を完璧にこなしたっていうのに、こんな僕が相手では台無しだ。 僕のせいで、このドラマが本当に大コケしたら見ものだな...と自嘲的な笑みを浮かべていると、ドアをコンコン、とノックされた。 「景、今いい?佐伯さんが来てるんだけど」 宮ちゃんの声が聞こえたから、僕は慌てて灰皿で煙草を揉み消した。

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