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第135話

ページをめくっていたら、景のインタビュー記事が目に止まった。 細かい字でびっしりと書かれているから、じっくり読むには躊躇してしまうけど、たまたま目に入った文字は、後悔したくない、という文字だった。 そこから文字を辿っていくと、マンションに行った日に景から聞かされた、おじいさんが急に亡くなった時の話が載っていた。 ――人との出会いは、一期一会。その人と出会った事には必ず意味があると思っています。だから今できる精一杯の事を、その人にしてあげたい。たまにやり過ぎて、引かれちゃう時もあるんですけどね。(笑)―― これは予言だったのか。当たってるじゃないか。 (やり過ぎて引かれるどころか、絶交なんて言われてんで、自分) 確かにキスはやり過ぎだったけど、後先考えずに行動してる俺の事が本当に心配で来てくれたんだろう。 俺は自分勝手だ。酷い事言って、蹴り入れて。景は何も悪くないのに。 まず謝って、それから告白してみようか。で、振られる、と。 景の片えくぼを作って笑う写真を見ながら、俺は声に出して言ってみた。 「景、おれ、景の事、す、す……」 その時、玄関の鍵が回ってドアが開いた音がした。 「ただいま〜」と母がビニール袋をガサガサ言わせながら入って来たのが聞こえたから、俺は急いで本をバタン!と閉じて、本棚に戻した。 「あぁっ!」 勢いよく本と本の間に差し込んだせいで、写真集の下の部分にかかっていた帯が曲がってしまい、少しだけ破れてしまった。 お願いだからオカンに気付かれませんように、と願いながら、俺は何事も無かったように再度ダイニングテーブルについてコーヒーを飲んだのだった。

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