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第137話 side景

約四ヶ月間の撮影を無事終えた頃には、季節は春を迎えていた。 何日か前に桜の開花宣言が出されて、あと数日で満開になると聞いた日の夜、ドラマを一緒に作ったスタッフや共演者、そして監督指揮を務めた川田さんを含めたみんなと打ち上げをした。 ドラマは深夜枠にも関わらず、幸い大コケもする事も無く、それどころか毎回高視聴率を叩き出していた。 もうこのメンバーで作品を作る事は二度とないかと思うと感慨深いものがあったけれど、共演した同世代の俳優達とも仲良くなれたし、連絡先も交換出来たから、再び会えるのを楽しみにしている。 無事終えた開放感からかいつもよりも酔いが回り、マンションにようやくたどり着いた頃には日が昇っていて、すぐに寝室に入ってそのままベッドで眠ってしまった。 目覚めたのは昼過ぎで、冴えない頭に鞭打つようにバスルームへ行きシャワーを浴びた後、溜まっていた家事全般をこなして、ようやく全てやり終えて落ち着いてコーヒーが飲めた頃にはもうとっくに外は暗くなっていた。 (思ってた以上に時間が掛かったな……) 僕は完璧主義者だ。 掃除をやると決意したら徹底的にやり通したい。 だから、今日これから彼に電話するという事も、佐伯さんと楽屋で話したあの日に決意したからそれをやり遂げるつもりだ。 例えそれが、僕や彼にとって辛い結果になってしまうとしても。 コーヒーを飲み終え一服してから、彼の番号に電話を掛けてみた。 もうこれが五回目の電話だ。 着信拒否にはされていないのが救いだが、呼び出し音を聞き続ける事にはもはや慣れてしまった。 その無機質な音を聞きながら、やっぱり出ないよな、と半ば諦めの気持ちで終了ボタンを押す。 僕はどうにか彼と話せる手立ては無いものかと、日課でもあるトレーニングをしようと部屋の隅に移動して体を動かしながら考えていた。 腕立て伏せをしながら、バイト先の飲み屋に行ってみようか、と考えた。 しかし彼のシフトが分からない。 働いてる最中に突然行っても周りに迷惑をかけるだろう。 家に押しかけるか……。 確かアパートの前がコインパーキングになっていると言っていた。 調べればいくらでも分かる事だけど、肝心の住んでいる部屋番号までは分からない。 待ち伏せするにも、必ず会えるという保証は無いし。 「よっ」 床に両手をついて、壁に足を掛けて逆立ちになってみた。 逆さまになった世界を見ながら、彼の事を思う。 もう僕は悩まない。 何がなんでも今日修介と会話をする。その為には…。 やはりあいつ無しでは解決出来ない。 あまり頼りたくは無いけれど、背に腹はかえられない。 「よし」 足を下ろして立ち上がると、僕は翔平の番号に電話をかけた。

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