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第171話
理解した。
手汗が出てきて、膝の上に手の平を何度も押し付けた。
身体中が強張って、ますます脈拍が走る。
景はきっと、俺と同じ事を考えてるんだ。
その服の下の素肌を見てみたい。
あわよくば、体に手を這わせて、体温を感じたい。
「でも、今言った事は忘れて。君の事、大事にしたいから」
「あのっ、俺、ずっと景の事が好きやってんっ」
下を向いていたけど、横からは景の視線を痛いほどに感じていた。
「だからっ、今日泊まっていいからって誘ってくれて、凄く嬉しかったんよ。そんな風になれたらええなって思っとったし……だから別に、早いとか日が浅いとか気にせんでもええで?景の事、ホンマに好きやから」
「そうなってもいいって、思ってるの?」
ハッキリとした口調で言われて、景の方に視線を向ける。
景の瞳はやっぱり不思議な力を込めていると思う。大きな目、くっきりとした二重、眉毛と目の幅が狭くて、化粧して髪を伸ばせばきっとハリウッド女優なんかに間違えられそうだ。男なのにどこか可憐な雰囲気がある。
その瞳に吸い込まれそうになりながらも、気をしっかり持ってから何度も首を縦に振ると、景は片えくぼを作って返してくれた。
「やっぱり嘘でした、は無しだよ?」
「そんな事言わへんよっ!あぁ、でも……」
不安になった。
もし、痛かったらどうしよう。
「あの、景、怒らんと聞いてくれる?」
「うん。何?」
「俺、不感症かもしれへん……」
「不感症?」
うん、と頷いて、俺は瞬くんとの事を打ち明けた。
怒られるかと思ったけど、隠し通せる訳じゃ無いし。
瞬くんとの初体験は痛くて、この間もそんな雰囲気になったけど、瞬くんが摘んだ乳首は痛くて。
瞬くん以外とはそういう経験が無い事。
景は静かに相槌を打ちながら聞いてくれた。
「ふーん。だから僕とそういう事するのも不安だ、と」
「う、うん……」
唇を噤んで、また自分の膝に視線を落としていると、景はシートベルトをし直してハンドブレーキを解除した。
「シートベルトしてくれる?」
「えっ?あ、うん」
促されるまま、モタモタとシートベルトをカチカチはめているうちに車が動いて、そのまま夜の街を走り始めた。
何も言わずに運転する景の仕草を目で追って、今の話でやはり気を悪くしてしまったのかと不安になる。
「あの、景……」
「それだったらなおさらだね。早くマンション行こう」
「え?」
「試してみようよ。これから」
「……え、試すって……何を?」
「何をって、決まってんでしょ。セックスだよ」
「……景さん?!」
「あ、良かった。するキッカケが出来て。これでもう迷わなくて済むね。これからしよう」
「これから……」
来年主演する映画が二本決定した彼の不敵な笑みを、俺は固まったままじっと見つめる事しか出来なかった。
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