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第173話
「お腹は空いてる?」
「……いや、あんまり……」
バイト終わりの時は空いていた気がしたけれど、今はドキドキしすぎてそれどころじゃない。
胸がいっぱいで喉を通りそうにないし、今なにかを口にすれば緊張のあまり吐いてしまいそうだ。
「僕も実はあんまり空いてなくて。じゃあ、終わったら食べようか」
「えっ」
なに、そのテレビ見終わったら食べよう、みたいなノリ。
そんなに直ぐに終われるものなのか?
何故景はこんなに余裕があるんだ。
まぁきっとこのイケメンの事だから、俺よりもこういう経験がとても豊富なのだろう。
ちょっとだけ複雑な気分になってしまい、俺はプイとそっぽを向いた。
「修介に訊いておきたいんだけどさ」
「……何?」
「一人でする時はどうなの?ちゃんと気持ち良くて、感じるの?」
「……えっ!!」
バッと反射的に景を見る。
景は恥じる事も無く、真剣な表情だったから拍子抜けしてしまった。
一人でする時って……あぁ、何故そんな事を景に言わなくてはならないのか。
いや、恥ずかしいけどしょうがない。
景はこんな俺を心配してくれているんだ。
俺は伏し目になって遠慮がちにモゴモゴと言った。
「……ひ、一人でする時は……ちゃんと、気持ちええ、けど……」
熱すぎる顔を両手で覆う。
あぁ!なんでこんなエロ事情を人に話さなくちゃいけないんだ!
よりによってその相手は大好きな景だし!
「そう。じゃあもしかしたら、重村くんとの相性が悪かっただけなのかもしれないね」
「……」
指の隙間から景の横顔を盗み見る。
景は真面目だ。
まるで仕事の一環のように、俺の体を真面目に開発してくれるんだろう。
想像では、違ってた。
俺が電車に乗ってマンションに訪れて、景の美味しいご飯を食べながらお酒も飲んで、ほろ酔いになったところでキスをして……って想像していたのに。
まさか全部の工程をすっぽ抜かして、いきなりエッチに突入だなんて。少しでもアルコールが入ってれば羞恥も半減されただろうに、素面だし、恥ずかし過ぎる。
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