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第176話*
「脱がしてもいい?」
「……うん」
景は、俺の着ているシャツのボタンを一つずつゆっくりと外していく。
俺はその光景を、顔から火が出るような思いで凝視する。
景の細くて長い指の動きも、布のこすれる音も、すごくいやらしくて。
ほんとに、最後まで持つんだろうか、俺の心臓。
景は緊張を和らげようとしてくれているのか、優しく話しかけた。
「これ、イギリスのブランドのシャツだね。僕も好きで何枚か持ってる。修介がこういう色着てるの、珍しいよね?なんだか新鮮」
「あ、ホンマ?これ、古着屋で瞬くんが選んでくれたんよー。ちょっと高かったんやけど、いろんな人が似合うって言うてくれて」
「……へぇ……」
景の表情が冷たくなって目が細まったから、ここでようやくハッと気付いて、ヘラヘラしていた顔を引き締めた。
ヤバイ!
何故俺はよりにもよってこんな日に元カレが選んだシャツなんか着て来てしまったのか。
気に入っているからついいつもの調子で無意識に袖を通してしまった。
「あっ!すいません!もう着ません!ていうかフリマで売ります!」
「別に、いいけどさ……」
景はしぶしぶと言った様子で止めていた指先を再度動かしてボタンを外していった。
五個目のボタンを外し終えて、シャツを左右に開かれる。
中にインナー用のTシャツも着ているから、それも脱がせようと俺の腰の下に手を回して身体を浮かせて、上へと捲し上げていき、徐々に肌を露わにさせていく。
俺は羞恥で爆発しそうなのを誤魔化す為にわざとふざけた調子で言った。
「エ、エッロ……」
「こんなので恥ずかしがってちゃ、この先もたないよ」
こちらの気持ちはお見通しという風に言われて、気がつけばTシャツが首元まで捲られて、上半身を見下ろされていた。
「うーん。思ってたよりも随分細いね。でも、綺麗だよ」
俺の胸の中心にはポツンとホクロがある。
それを指先で軽く押された後、脇腹とおへその中間のあたりでこしょこしょと動かすから、くすぐったくて。
「景っ、くすぐったいっ!」
「あ、ごめん」
クスクスと笑い合ったのも束の間、景の右手の指が俺の胸の方まで伸びてきて、指先で軽く一点を触った。触れるか触れないかの絶妙な指使いで。
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