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第105話

その後カラオケしたり、駅ビルを散策したりしているうちにあっという間にお別れの時間が来てしまった。 駅の改札口で、別れの挨拶をした。 「じゃあ、バスの時間もあるし、行くわ。泊めてくれてホンマにありがとう。修介といろんなところ行けてめっちゃ楽しかった。色々迷惑かけてごめんな」 「迷惑だなんて思っとらんよ。俺もめっちゃ楽しかったで!会いに来てくれてどうもありがとう。また、あっちでな」 「ちゃんと考えといてな?じゃあまたな」 「……うん。分かった。またね」 瞬くんは改札に入ると振り返り手を大きく振ってくれたから、俺もブンブンと手を振った。 見えなくなってから、踵を返して来た道を戻る。 その道中、瞬くんの事を考えていた。 今度返事をすると言ったけど、俺の中では瞬くんの側に行く方向に傾いていた。 昨日の今日では完全に景の事を断ち切れていないけれど。 でも、瞬くんと一緒にいる未来の方が現実的で想像出来る。きっと幸せに満ちた、陽だまりのように暖かい未来だろう。 何度も頭の中で繰り返してそう言い聞かせた。 帰り道でコンビニに寄ったら、見つけるつもりは無かったけれど、昨日俺に忌々しい事をしたあの超絶イケメンを雑誌コーナーで見つけてしまった。 ティーン雑誌の表紙を飾る彼は、不敵な笑みでこちらをじっと見つめている。 俺は不覚にもドキッとしてしまったけれど、すぐにブンブンと首を横に振って、その雑誌を思い切り睨みつけてやった。 (ヒゲでも落書きしたろか、アホ) 雑誌を持って、昨日この人に手首掴まれて無理やりキスされたんですよー、と今ここで声を大にして言ったら、一体何人が信じてくれるだろうか。 次の日の夕方、バイト先で翔平に謝られた。 景に何だか脅されて俺の事を話してしまったようだけど、脅された内容は教えてくれなかった。 俺はもう景と絶交した、と言うと、小学生か!となじられたけど、景にキスをされた事は何故か言えなかった。 翔平にまでキッチリ確認していたなんて、彼はどこまでも抜かりのない男だなと思った。

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