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第211話

そこは閑静な住宅地。 一台分だけある駐車場は空いていて、そこに車を停めて降りた。 地元の人でもこんな場所にカフェがあるなんて知らないんじゃないのかっていうくらい、一見素通りしてしまいそうな場所だ。 小さくかかっている看板には、営業時間と日替わりメニューがチョークで小さく書いてある。 景が扉を開けると、鈴の音がリンと鳴って、中からすぐに「いらっしゃいませー」と声が聞こえた。 「景くん、お久し振りね!お友達?」 「お久し振りです。すみません急に。大丈夫でしたか?」 「ええ大丈夫よ。ゆっくりしていってね!」 その女の人と目が合うと、ペコッとお辞儀をされた。 「いらっしゃい。景くんとは長い付き合いで。相良慶子(さがらけいこ)です。よろしくね」 「あ、北村です」 景と慶子か、とニヤリとしてから、景の後に続いて店内に入る。 奥のキッチンにもう一人女の人がいて、また丁寧に挨拶をされた。 中の壁は白く塗られていて、優しいオルゴールの音色が流れている。 すぐ側にあるガラスケースの中には、少しのケーキと手作りお菓子の詰め合わせが並べられていた。 決して広いとは言えない空間だったけど、落ち着いた雰囲気でなんだかホッとした。 「ここでいいかな?」 四人掛けのテーブル席を指さされて、うんと頷いて椅子を引く。 慶子さんがトレイで水とメニュー表を運んで来てくれた。 「今日のオススメはシフォンケーキとコーヒーのセットでーす」 「それ、いつもですよね」 「そうだったかしら?じゃあ、決まったら教えてね」 ハキハキと喋っていて、元気な明るい人だなと思った。 景は俺にメニュー表を差し出しながら、小声で話しかける。 「ここ、オープンしたのは二年前くらいなんだけど。慶子さん、僕の小学校の同級生のお母さんなんだ。修介も来てくれた飲み会でそいつもいたんだけど、話したかな? ちょっとふっくらしてて、髭が生えてて、よく三十代に間違われる風貌の面白い奴なんだけど」 「ええっそうなん?めっちゃ若く見えるし、綺麗な人やからビックリした。髭生やしてる、面白い奴……うーん、覚えてないなぁ」 まさか二十歳を過ぎた息子がいるなんて誰も思わないだろう。 あの飲み会の時は景と会えたって事だけでなんだか緊張してたから、いくら記憶を探ってもそれらしき人物は全く浮かばなかった。

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