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第214話

慶子さんに言われるまで、そういう事は気にしないようにしていた。 分かってたんだけど、俺は弱いから、そういう事を考えない楽な道を選んでいた。 景は本当はノンケだった。 俺の事を好きにならなければ、本来なら女の子と付き合っていた筈だったのに。 俺といたって天と地がひっくり返っても子供が出来る訳じゃない。 俺の幸せは、景と一緒にいる事。ただそれだけだけど、景の本当の気持ちはそうじゃなかったら。 もしかしたら景は、普通に幸せな家庭を築きたいのかもしれない。 それか、俺とは今だけの関係で、そんな未来の事までは考えてないか。 俺は、出来る事ならずっと一緒にいたいけど、きっとそんな事言ったら重いよね。 「あ、ごめんなさい。私変な事言ったかしら」 慶子さんの声にハッとして顔をあげて、慌ててかぶりを振った。 「あ、いえ!すいません、ボーっとしちゃって。昨日あんまり寝てなくて」 「あら。大学忙しいの?」 「一応四年生なので、就活してます」 「あぁ、就活ねぇ。どうなの、最近は?厳しいの?」 胸のつっかえが取れないまま、慶子さんととりとめのない話をしていたら、ドアが開いた。 「すみません、食事中に席を立って。あ、なんだか、仲良さそうだね。何話してたんですか?」 「内緒!なんてね。就活の話とか」 慶子さんが席を立つと、そこに景が座って俺を見て笑ったから、俺も釣られて微笑んだ。 上手く笑えてるはずだ、きっと。 「普通は休みの日にかかって来ないんだけどね。今出先で今度会うプロデューサーにお土産買おうとしてたみたいで、その話。そんなの勝手に決めてくれていいのにさ、変なとこにこだわりがあって」 「あぁ、そうなんや」 景とのデート、楽しみたいのになぁ。 なかなかこの胸のモヤモヤが取れない。 今身体をつつかれたら、倒れてそのまま起き上がれなくなりそうだ。 しばらくしてから俺たちは席を立ち、慶子さんに挨拶をしてカフェを出た。 車に乗り込んでから、景はマネージャーの宮崎さんについての面白エピソードを語ってくれた。俺は笑顔を心掛けていたけど、気の利いた言葉は一切出て来なくて、ただ乾いた笑いをするだけだった。 長い俳優業で培われた鋭い観察力を持つ景は、もちろんこんな俺の態度の変化を見逃すはずが無かった。

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