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第215話

結局、夕ご飯はどこに行くか決められないまま、アパートに戻ってきてしまった。 景は「お邪魔します」とまた丁寧に言って、若草色のソファベットに腰を降ろした。 「お茶でも飲む?」 「ううん、大丈夫。修介、いいからここ座って?」 景はソファベットをポンポンと手で叩いた。 俺は頷いて、景の右隣に遠慮がちに少し隙間を空けて座る。 「わっ」 いきなり肩に手を回されて引っ張られたから、思わず声を上げる。 俺は両足は地についたまま景の胸元へ顔を押しつけるという変な体勢になった。 景の体、すごく熱かった。 「どうしたの?」 声が低く響いて聞こえた。 俺はドキドキしながら、顎を持ち上げて景の顔を下から覗く。 「……何が?」 「ほら、出た。天の邪鬼」 景は目を細めて俺を見下ろした。 きっと景は気付いている。俺がモヤモヤしてるんだって事。 でも俺は素直になれなくて、やっぱりどうにか追求を逃れる事は出来ないものかと抗ってしまう。 「何が出た、やねん。別になんも……」 「何も無い訳ないでしょう。僕の目は誤魔化せないよ。やっぱり、映画館での事まだ怒ってるの?」 「……」 「それか、慶子さんと話していて何かあったの? 就活の話で、不安になったりだとか」 「……」 どうやって言葉にすればいいか分からなかった。 景はちゃんと、俺のことを好きだっていうのは分かる。 景の言葉に嘘なんて無い。 合鍵だって俺にくれたのに、なんでこんなに不安になっているんだろう。 景は何も言わず、優しく俺の髪を摘んでいつものようにいじり始めた。 訊きたいけど、訊けない。 俺といて、大丈夫なんだよね?景の未来を、俺は奪ってないよね?

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