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第219話

* * * 目が覚めると、すでにあたりは暗くなっていた。 時計を見たら、三時間ほど経過していた。 薄暗い中ベッドの方を見ると、景は仰向けで規則正しい呼吸音をさせながら、未だにスヤスヤと眠っていた。 (ほんま、しんどかったんやなぁ……) ベッドに近づいて景の顔を覗き込む。 額や首筋に汗をかいていて、前髪が額にぺったりと張り付いている。 タオルを持ってきて、床に膝立ちになってそれを優しく拭いてやった。 具合が悪いって、なんですぐに気付いてあげられなかったんだろう。 自分の鈍さ加減に腹が立つ。 こんな状態で、運転するのも辛かったのではないか。 それなのに、俺には何も言わないで、人の事ばっかり気にかけて。 拭いていても全く起きる気配がなくて、熟睡してるようだった。 景の綺麗な寝顔を見つめながら思っていた。 この前、セックスが終わった後、こんな風に俺の身体を拭いてくれたのかなぁと。 途端に愛しさが込み上げてくる。 なんで、こんなに好きなんだろう。 モヤモヤしていた気持ちが嘘のように、俺のこの胸の内は景への愛しさで一杯になった。 景がもし、本当は女の人と結婚して、幸せな家庭を築くのが夢なんだ、なんて言ってきたら俺は泣く。きっと。 でも、それが景の望む幸せなんだったら、それでいいんじゃないか。 景が幸せになるんだったら、俺は嬉しい。 たとえ俺が、犠牲になっても。 人生なんて、何が起こるか分からないって身をもって知ったし。 景と出会えた事、それ自体に意味があるんだ。 先の事なんて分からないけど、変に勘ぐるよりも、景が今この瞬間好きなのは俺なんだって事実だけを受け止めて生きて行こう。 そう、心に誓った。 無意識に俺は、景の頬にキスを落としていた。 はっとして、焦って顔を離したけど、それでも景は起きなかった。 この前セックスもしたっていうのに、未だに信じられない時がある。 この人が俺の恋人だなんて。 心臓がドキドキと言い過ぎて、胸が締め付けられるように痛い。 俺はゆっくり立ち上がると、片膝をベッドに沈み込ませた。 ちょっとだけ、ちょっとだけ。

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