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第228話
「ねぇ、どうやって練習したの?ほら、早く言わないと、またここに指入れちゃうよ?」
「この、変態!言わへんったら言わへん!」
羞恥のあまり悪態をつき、膝の上から体を下ろして逃げた。
あっ、と景の手が伸びてきたけど、スルリと交わして距離を置く。
景は諦めたのか、クスッと笑ってそれ以上は追求して来なかった。
言えない。
大人のおもちゃで練習して、それはネットで購入して、今そこにある衣装ケースの下段に入っているだなんて。
冷蔵庫の中からミネラルウォーターのペットボトルを取り出してぐいっと飲んだ。
ふと、テーブルの上にあるキラリと光るアクセサリーが目に入る。
エッチを始める際に、景が外した二つの指輪とネックレス。
俺はしゃがみ込んでまじまじと眺めた。
ネックレスといつも人差し指にしている指輪は同じくらいの大きさで、幅広のベースリングにクロスデザインが彫り込まれている。
どこのブランドのものか訊いてみたけど、全くピンとこなかった。
小指にしているもう一つの指輪はいばらの冠のような形をしていて、真ん中には小さく朱赤色の石が埋め込まれている。
その石が見る角度を変える度にキラキラと光って綺麗で見惚れていると、景は「そっちは」と声を掛けた。
「オーダーメイドだから、世界に一つだけなんだよ。なかなか気に入ったデザインの指輪が見つからなかった時、知り合いにいいところを紹介してもらって。赤い石は誕生石のルビーなんだ。僕、七月生まれだから」
「へぇー……」
誕生日がいつかなんて景に直接訪ねた事は無いけど、付き合うずっと前からネットで調べていたから知っている。
七月二日。
そういえばもうすぐだ。
何あげようかな……と思いながら、それを指でつまんで持ち上げた。
「景はなんでも似合ってええなぁ。俺、アクセサリーって全然持ってへんし、指輪なんてした事ないしなぁ」
景は思い立ったようにソファベッドから降りて床に膝を付くと、俺の手から指輪を取った。
「試しにしてみたら? 案外似合うかもよ」
「えっ?」
景は俺の右手を優しく包み込んで、小指にスルスルと指輪をはめていく。
その行為がなんだか結婚式での指輪交換のそれに見えて、恥ずかしい。
景の顔はまともに見れないまま、俺は指輪がはめられた右手を宙にかざしてみる。
その瞬間、確信した。
こ、これは……っ!
「ぜんぜん、似合わへん……!」
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