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第262話
「な、なんで南さんが俺の事……」
「さあな。お前に嫉妬や恨みでも持ってんじゃねぇの?」
俺は四日前の出来事を思い出した。
トイレに向かう途中、南さんは誰かと話していた。あの時は気付かなかったけれど、朝井さんだったんだ。
朝井さんの言う通り、南さんは景から指輪を貰えた俺に嫉妬をしたのかもしれない。
それか、南さんはやっぱり俺と景が付き合ってるっていうのを気付いて……?
いや、そんな事は今はどうでもいい。
とにかく、この状況を打破しなければならない。
手に力を込めて朝井さんの体を押してもビクともせず、逆にその両手首を凄い力で押さえ付けられた。
下半身にも体重を掛けられ、まさに逃げ道がない。
「本当はさ。俺の家でゆっくり愛してあげたかったんだけど、久々にこういう店でやんのもいいよね。なんかドキドキしない?」
「やだ!景!」
愛しい人の名を呼ぶと、朝井さんは苛立ったように荒く俺の唇を塞いだ。
歯が当たってしまったようで、薄っすらと鉄の味がした。
朝井さんは顔を寄せて冷たく言い放つ。
「あと、もう一つ教えといてやる。俺、藤澤の事嫌いなんだよね、昔から。お前の事めちゃくちゃにすれば、あいつの胸の内に深い傷が残ると思わない?見ものだな、藤澤が大好きでしょうがないお前を守れなくて絶望に打ちひしがれているところ」
俺はぎゅと目を瞑った。
「大丈夫。無事終わったら本当に帰らせてあげるから。お前と会ったことも、藤澤と付き合ってる事も何もかもきれいさっぱり忘れてやるよ」
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