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第275話 番外編 苺
「んん?!」
指が引き抜かれて苺だけを口内に残され、すぐに景の唇で塞がれた。
舌が侵入してきて、苺がじゅっと潰される。
途端に口の中に甘酸っぱい味と香りが広がって、果肉と種の粒々がざらついて残った。
景はそれを味わうように、角度を変えながら吸い続けた。
「……ん……?」
どんどんと果肉が無くなっていき、果汁が溢れ出てくる。
その度、種だけが取り残されていくけれど、その舌触りがザラザラとしていていやらしく、体からどんどん力が抜けていく。
右手にあった苺は、床へコロコロと転がった。
「んっ……!」
初めは成されるがままだったけど、その快感から自ら舌を絡ませにいった。
頭を景の肩口へ乗せて目を閉じて味わっていると、果汁が唇の端から漏れて顎を伝い、着ている白いシャツの上にポタリと落ちた。
「あっ!」
慌てて唇を離してそこに視線を移すと、白い布地がみるみるうちに赤く染まっていったから焦ってそこを手で擦った。
「あぁもうっ、汚してしもうたやんかっ」
「え?僕のせい……?」
「だって、キスする前に苺食べるといい言うといて、なんで苺食べながらキスしてるんや?」
「出たよ。修介の八つ当たりが」
「は?!」
「気持ちよくなって自分から求めてたくせに、よく言うよ」
「し、してへんし!どうすんねんこれ。シミ取れんかったら!」
「取れる取れる。任せてよ。僕、洗濯王子だから」
「何?洗濯王子って」
「僕の手にかかれば頑固な汚れやシミもたちまち真っ白に。その名も洗濯王子」
「ドS変態王子の間違いやなくて?」
「だから、一回ついちゃったら、心置き無く汚せるね」
景はもう一度手を伸ばして苺を取り、また俺の口へと押し付けてくる。
今度は苺の半分ほどを入れた状態で俺の唇ごと苺を潰すと、またしても果汁が口いっぱいに広がって、息継ぎの度に唇から垂れてシャツにシミを作っていく。
先程とは違う強引な口付けに、さらに顔が逆上せて、身体の芯が熱くなっていく。
苺が無くなってはまた口に運ぶ。
白いシャツは襟や胸元がベタついて、波紋のようにシミが広がっていき、それを三回繰り返されたところで、俺の方が先に根をあげた。
「け、景、もう、お腹いっぱい……」
口の周りがべとついて気持ち悪いけど、いつまでもキスしていたい心地よさだった。
でもこれ以上続けるとブレーキが効かなくなる。
「気持ち良かったね?」
赤くなって慌てて視線を落とす。
ふとシャツを見ると、大変な事になっていた。
「あぁっ、なんやこれっ」
「大丈夫だよ。洗濯王子がいるから」
「そういう問題ちゃうねん!」
「もう。気持ち良くてはぁはぁ言ってたくせに」
「だ、だって、なんかやらしくて……」
「やっぱり噂は本当だったね。検証結果をみんなに言っておこうね」
「は?!言わんでええからなっ!」
「あはは。嘘だよ、可愛いな修介は」
景に後ろからギュッと抱き締められて、思った。
……本当にシミを落としてくれれば、許してあげてもいいかも。
景の口から苺の香りがして、いつものバニラ味もいいけど、こんな甘々なのもいいなぁとこっそり頬を赤く染めたのであった。
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