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第283話 side景

酒が来てから、皆で乾杯をする。 僕はビール、詩音は甘いカクテルだった。 きっと酒は弱いのだろう。 一息つくと、詩音のマネージャーが無邪気に言った。 「藤澤さん、今日はありがとうございます。まだまだ新人なので、ぜひ可愛がってあげてください。詩音、藤澤さんの事が三度の飯より大好きで、藤澤さんに憧れて芸能界入りしたんですよ」 「えっ、ちょっと、やめて下さいよ……」 詩音は焦ったようにマネージャーの言葉を制止した。 照れているのか、やはり顔が赤い。 それを見て僕は微笑ましくなる。 「はい、宮崎さんから聞いてます。恐縮です……詩音くん、お酒は?」 「えっ!」 いきなり話しかけられて驚いたのか、目を見開いて口を一文字に結び、何も答えずにそのまま固まってしまった。 何処かで見たことあるようなその顔。誰だっけ。 ああ、僕の愛しの恋人だった。 「そんなに緊張しないでよ。お酒はあんまり飲めないの?」 「……あ、はい。実は、二十歳になったのは最近で。好きなんですけど凄く弱いみたいです。すぐ酔っ払っちゃって、顔が真っ赤になるんです」 「へぇ、見てみたいな」 「それはもうすごいですよ藤澤さん!この間この子ベロッベロになっちゃって」 「ちょっ、マネージャー……」 詩音とマネージャーの関係性が見えてきた。 二人は息ぴったりといったところだろう。 「詩音は本当に藤澤さんの事が大好きで、デビュー作から全部チェックしてるんですよ」 マネージャーのお蔭で、詩音が何も言わなくともどんどん情報が入ってくる。 詩音は途中までは困った素振りを見せていたが、もう吹っ切れたのか、マネージャーの言葉にすかさず付け加えた。 「あ、あの、藤澤さんの初主演作の演技を見た時、衝撃的でした。あれを見て、僕も絶対にこんな俳優になりたいって思ったんです。あれ以来ずっと藤澤さんに憧れていますし、今もそれは変わりません。僕の目標としている方は、藤澤さんです」 僕の初主演作? あんなの、思い出すだけでも恥ずかしい。 右も左も分からなくて、必死すぎてから回って、大根演技で。 でも詩音は、それを見て憧れたと言ってくれている。 素直に心から嬉しくなった。 「そんなに前から僕の事を知ってくれてたんだね。ありがとう。誰かの人生に影響を与えられて、僕は嬉しいよ。今日は沢山飲んでね?あ、飲めないんだったね」 グラスを持つと、詩音もグラスを持って合わせてくれた。 「これからよろしくね、詩音」 つい癖で、勝手に名前を呼び捨てにしてしまった。 馴れ馴れしいかなとも思ったけど、当の本人は顔がパアッと明るくなって華が咲き、すごく嬉しそうだった。 「いえっこちらこそ、光栄です!藤澤さんの足を引っ張らないように、精一杯頑張ります!よろしくお願いします!」 詩音と呼んでから、あちらもやっと緊張が解けたようで、いろんな話をしてくれた。 驚いた事に、趣味や出かける場所などもよく似ていた。 身体を動かす事が好き。飲めないくせに、ダーツバーなんかにもよく行くらしい。 話が予想以上に盛り上がって、連絡先も交換し、その場で今度一緒に遊びに行く約束をした。 詩音も僕も忙しいから、今度なんていつになるのか分からないけど、初めて出会ってすぐに予定を取り付けるなんて事は僕にとっては珍しい。 きっとフィーリングが合うんだろうな。 また気の合う友人に出会えて本当に良かった。 まだ出会ったばかりでよく知らないけれど、いつか詩音にも、修介の事を話す時が来るだろう。 そんな予感を感じた帰り道だった。 詩音にお礼のメッセージを送ろうとスマホを取り出すと、修介からの着信があったのに気付いて、すぐにリダイヤルボタンを押した。

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