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第287話

* * * ある日のバイト終わり。 「北村さーん聞いて下さいよ!私、また彼氏の事怒らせちゃって」 「はぁ?今度は何したん?」 「電話してって言われたんですけど、友達と遊んでたから、約束してた時間よりちょっと遅れちゃって」 「え、で、それで怒ってん?」 「俺よりも大事な用事なんだ?って拗ねちゃって」   (ゆきちゃん……顔が見てみたいわ) 莉奈と俺はあの日以降、よく話すようになった。 もちろんバイトでは限られた時間でしか話すことは無かったけれど、バイト終了後も店を出てから少しだけ立ち話をしたり、それでも足りない時は莉奈は俺に電話を掛けて来た。 あれから彼氏とは直接会ってはいないみたいだけど、些細な事でスイッチが入るからどうしたらいいのか分からないらしい。 ほとんどは彼氏の話だけど、脱線して大学の話とか、趣味の話になるのはしょっちゅうだった。 急に沢山話すようになった俺たちを見て、他のバイトの奴らは、付き合ってるんじゃないかと勘ぐっていたみたいだけど、俺たちはそんな事あり得ない、と笑った。 莉奈はそんな対象には見えない。 というか、そもそも女の子に興味は無いし、俺は一人っ子だからどういうものか分からないけど、まるで妹みたいな存在なんだ。 莉奈もきっと俺の事を兄とかそんな風に思っているんだろう。 実際、俺と同い年の仲の良い三つ上の兄がいるらしいし。 「あんなぁ、そんなんで怒ってるなんて短気もええとこやで?もっと優しくして!って、可愛くお願いしてみたらどうや?」 「えーっ無理です!そんなぶりっ子出来ません!」 莉奈はほっぺをぷぅと膨らませる。 俺がアドバイス的なことを言っても、結局は無理、できないと言って困らせる。 でも別に面倒だとは思わなかった。 莉奈は一緒にいて楽なんだ。 翔平と一緒で、気を使わなくていいから。 莉奈がシフトに入っていない日、翔平とバイト終わりに帰り道を歩いていると、案の定莉奈の事を聞かれた。

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