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第291話

(そうや!景、アクセ好きやないか!) 見られたら恥ずかしいから今日はしていないけど、お気に入りの指輪を俺にくれた事だし、指輪をあげたら喜ぶんじゃないか? いや、指輪をもらっておいてまた指輪をプレゼントするっておかしい気が…… じゃあ、ネックレス? この十字架モチーフ、景っぽい気がするけど……大幅な予算オーバー。 こっちのブレスレットは景の好みじゃなさそうだし。 なかなかうまく行かないなぁと思い、翔平にまた相談しようと後ろを振り向くと、そこにいたはずの翔平はいなかった。 「お連れの方、今あちらでデニムのご試着なさってますよ」 どこいった、と考えていた矢先、さっきの男性店員さんが俺に寄ってきて、試着室の方に手をやりながらニコリとした。 黒縁眼鏡をかけて、ひげも生えている。店長さんなのかな。 身長と体形は俺と同じくらいなのに、醸し出す雰囲気や色気がまるで違う。 「あっ、そうですか。いなかったんでビックリしました」 「なんだか一目惚れしたみたいで、早い段階で試着室に行かれてましたよ」 全く。自分の買い物になると本気出すんだから。 呆れながらも再度ガラスケースの中を覗くと、店員さんにまた声を掛けられた。 「もし気になるのがあればお出しますからね。アクセ、お好きなんですか?」 「あ、いえ、俺じゃなくて、プレゼントなんですけど」 「あぁ、そうでしたか。今おすすめなのはこのネックレスなんですけど、ユニセックスになっておりまして」 店員さんはさっき俺が見ていた十字架のネックレスを指して、そのブランドについていろいろと教えてくれた。 「イタリアのブランドなんですが、カジュアルなものからビジネスに使えるものまで幅広くデザインされているので、プレゼントに選ばれる方が多いですよ」 店員さんに促され、さらに奥の方へ進み商品を眺めた。 うん。ネックレスを見たとき思ったけど、どれも景に似合いそうな洗練されたデザインばかりで、このブランドはすごく気に入った。 きっと景が持っていたら様になるだろう。 端から順にガラスケースの中を覗いていったけど、しかしどれも予算オーバーだった。 うーん、残念だけど、諦めよう。 「あ、すみません。どれもいいなと思ったんですけど、ちょっと」 いろいろ案内してくれたのに申し訳ないなと思いながら視線を移した先に、レザーでできた手のひらサイズの四角いカードケースのようなものが目に留まった。 黒のレザーに白の縫い糸が映えていて、真ん中にはそのブランドのロゴが記されている。 直感で、なんかいい、と思った。 そして肝心の値段。予算内だ。

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