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第292話

「あの、これって何ですか?」 「こちらはオイルライターですね。もし喫煙される方でしたら喜ばれると思いますよ。オイル持ちも良いので頻繁に補充する必要もないですし。こちらは日本製ですので細かなところまで丁寧に作られておりますし、牛革ですので使っているうちにどんどん馴染んで味が出てきますしね」 店員さんはガラスケースの鍵を開けて、そのオイルライターを出してくれた。 俺はそれを手に取り、まじまじと眺める。 うん、これはいいかもしれない。 景といえばブラックだ。そしてレザー。 俺の中ではそういうイメージが定着してしまったせいか、そのオイルライターにほぼほぼ決まりかけていた。 店員さんはさらに付け加える。 「これは昔からの定番で人気の商品なので、毎年形を少しずつ変えながら出しているんですけど、今回のは前回のに比べて厚みもスリムになったので、ポケットにいれてもかさばらないんです。あとオプションでお名前を掘ることも出来ますよ」 「へぇー。名前ですか?」 「はい。筆記体のアルファベットで。本体とは別料金となり、もし掘るとなるとお時間いただく事にはなるんですが」 掘る料金はいくらか聞いたけど、思っていたよりも高くなかった。 名前なんて入っていたら、きっと景も驚いてくれるに違いない。 「あの、もし名前を掘るってなったら、いつ頃受け取れそうですか?」 「だいたい二週間前後頂きますので、例えば明日業者に商品を送るとなると、七月二日の夕方頃には仕上がってお店には届いていますね」 二日の夕方。 誕生日当日だけど、景は夜から会えると言っていたし丁度いいかもしれない。 このお店に寄ってプレゼントを受け取ってから、その後景のマンションに向かえばいいんだから。 「あ、じゃあ、これにします!」 店員さんとレジでやり取りをしていると、試着し終えた翔平が靴を履きながら俺の隣にきて、オイルライターを見て、お、と言った。 「いいじゃんそれ。景っぽいー」 「やろ?景っぽいやろ?ここに名前も入れられるんやって」 「へぇー!イかしてんね~」 俺たちのやり取りを聞いて店員さんは笑った。   「お二人の知人様にプレゼントですか?」 それを聞いた翔平はレジに肘をついて得意気に言った。 「はい。藤澤 景の誕生日プレゼントで!」 「え?藤澤 景って……俳優の?あぁ、ファンの方なんですか?」 「いや、ファンじゃなくってこいつの彼「はいっ!もうっ、昔からの大ファンでっ!」 翔平の腹に軽くパンチを食らわし、掘ってほしい名前を書いて、受取書の控えの紙を貰った。 商品代だけを支払って、オプション代は受取日の支払いだから、受取書は当日必ず持ってきてくださいとの事だった。 翔平も結局一目惚れしたデニムパンツをお買い上げしてから店を出た。 いいのが買えた。 景、喜んでくれるといいな。 ニンマリとして二人で帰路についた。

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