293 / 454

第293話 side景

「うーん……」 僕はスマホの画面と睨めっこをする。 今日の撮影も順調に終わり、滞在するホテルで食事をしているところだ。 何度確認しても、タケからの飲みの誘いのメッセージが入っているだけで、修介からの連絡は無かった。 いつでも電話していいよって言ったから、てっきり電話してきてくれるものだとばかり思っていた。 仕事の時間が不規則だから、もともと僕から掛ける事が多かったけれど、最近すっかりタイミングを逃してしまい、気づけば彼と会話をする事が無いまま丸一週間経っていた。 付き合ってからこんなに空いたのは、初めてかもしれない。 もしかして体調を崩しているんじゃないかとか、何かあったんじゃないかと勘ぐってしまう。 「どうかしましたか?藤澤さん」 隣に座る詩音が、箸でご飯を摘まみながら僕の顔を覗き込む。 僕はハッとして、スマホをポケットに突っ込んだ。 「ううん、何でも無い」 詩音には、付き合っている人がいるという事はまだ言っていない。 詩音からも、そういう類の事は聞かれていないし。 僕の事を好いてくれているのだから、南と別れているなんて事はとっくに知っているとは思うが。 「そうですか?なんだか悩んでるみたいでしたけど……あの、俺で良かったら話聞きますよ!」 「え?あぁ、ありがとう。大したことじゃないんだ。変な気を遣わせちゃってごめんね」 詩音とはこっちに来てからよく話すようになった。 撮影以外でも僕の隣にいる事が多い。 詩音は僕にようやく慣れてくれたみたいで、一人称を僕、から俺に変えた。   修介からの連絡が減ったくらいで後輩に心配させているようじゃ、僕はまだまだだな。 きっと今回の暗い役のせいで、ナーバスになっているのだろう、と自分に言い聞かせてみる。 詩音は困ったように笑って、お茶を一口飲んでから切り出した。

ともだちにシェアしよう!