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第293話 side景
「うーん……」
僕はスマホの画面と睨めっこをする。
今日の撮影も順調に終わり、滞在するホテルで食事をしているところだ。
何度確認しても、タケからの飲みの誘いのメッセージが入っているだけで、修介からの連絡は無かった。
いつでも電話していいよって言ったから、てっきり電話してきてくれるものだとばかり思っていた。
仕事の時間が不規則だから、もともと僕から掛ける事が多かったけれど、最近すっかりタイミングを逃してしまい、気づけば彼と会話をする事が無いまま丸一週間経っていた。
付き合ってからこんなに空いたのは、初めてかもしれない。
もしかして体調を崩しているんじゃないかとか、何かあったんじゃないかと勘ぐってしまう。
「どうかしましたか?藤澤さん」
隣に座る詩音が、箸でご飯を摘まみながら僕の顔を覗き込む。
僕はハッとして、スマホをポケットに突っ込んだ。
「ううん、何でも無い」
詩音には、付き合っている人がいるという事はまだ言っていない。
詩音からも、そういう類の事は聞かれていないし。
僕の事を好いてくれているのだから、南と別れているなんて事はとっくに知っているとは思うが。
「そうですか?なんだか悩んでるみたいでしたけど……あの、俺で良かったら話聞きますよ!」
「え?あぁ、ありがとう。大したことじゃないんだ。変な気を遣わせちゃってごめんね」
詩音とはこっちに来てからよく話すようになった。
撮影以外でも僕の隣にいる事が多い。
詩音は僕にようやく慣れてくれたみたいで、一人称を僕、から俺に変えた。
修介からの連絡が減ったくらいで後輩に心配させているようじゃ、僕はまだまだだな。
きっと今回の暗い役のせいで、ナーバスになっているのだろう、と自分に言い聞かせてみる。
詩音は困ったように笑って、お茶を一口飲んでから切り出した。
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