294 / 454
第294話 side景
「あの、藤澤さん。この後、お部屋に伺ってもいいですか?演技の事で相談したい事があって」
「え?それはいいけど、僕なんかでいいの? 監督や他のベテランの俳優さんにお願いした方が……」
「藤澤さんがいいんです。藤澤さんと俺のシーンで、どうしても納得いく演技が出来なくて。監督にも聞いたんですけど、藤澤さんと話して考えてみろって言われて」
「そっか。なら、二人で考えていこう」
「あ、ありがとうございます!」
詩音は深々と頭を下げてから満面の笑みを浮かべた。
周りからは、あんまりいじめて泣かせるなよ、と揶揄う声が聞こえる。
詩音のこういう一生懸命なところが好きだ。
出演シーンは少ないけれど、詩音は一つの演技をとことん突き詰めていく。
何日か一緒に過ごしてみたけど、話していても落ち着くし、変に気を遣わなくていい。
それに……。
僕は嬉しそうにご飯を食べる詩音の横顔を、頬杖を付きながら見つめた。
なんかこの無邪気な感じ、修介に似てるんだよな。
修介はちょっと抜けてるところがあるから、性格は全然だけど。
――会いたいなぁ。
ふと無意識に沸いてきた感情にフッと笑ってしまい、それに気づいた詩音も「思い出し笑いですか?」とつられて笑っていた。
僕、やっぱり重症だな。
修介の事が好き過ぎて。
まぁ、修介もきっと就活やバイトで忙しいのだろう。連絡なんてこんなものか。
僕の誕生日、知っててくれたみたいだし。
当日、修介に生クリームをたっぷり付けて、丸ごと美味しく頂いちゃおうか。なんてね。
ともだちにシェアしよう!