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第294話 side景

「あの、藤澤さん。この後、お部屋に伺ってもいいですか?演技の事で相談したい事があって」 「え?それはいいけど、僕なんかでいいの? 監督や他のベテランの俳優さんにお願いした方が……」 「藤澤さんがいいんです。藤澤さんと俺のシーンで、どうしても納得いく演技が出来なくて。監督にも聞いたんですけど、藤澤さんと話して考えてみろって言われて」 「そっか。なら、二人で考えていこう」 「あ、ありがとうございます!」 詩音は深々と頭を下げてから満面の笑みを浮かべた。 周りからは、あんまりいじめて泣かせるなよ、と揶揄う声が聞こえる。 詩音のこういう一生懸命なところが好きだ。 出演シーンは少ないけれど、詩音は一つの演技をとことん突き詰めていく。 何日か一緒に過ごしてみたけど、話していても落ち着くし、変に気を遣わなくていい。 それに……。 僕は嬉しそうにご飯を食べる詩音の横顔を、頬杖を付きながら見つめた。 なんかこの無邪気な感じ、修介に似てるんだよな。 修介はちょっと抜けてるところがあるから、性格は全然だけど。 ――会いたいなぁ。 ふと無意識に沸いてきた感情にフッと笑ってしまい、それに気づいた詩音も「思い出し笑いですか?」とつられて笑っていた。 僕、やっぱり重症だな。 修介の事が好き過ぎて。 まぁ、修介もきっと就活やバイトで忙しいのだろう。連絡なんてこんなものか。 僕の誕生日、知っててくれたみたいだし。 当日、修介に生クリームをたっぷり付けて、丸ごと美味しく頂いちゃおうか。なんてね。

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