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第296話 side景
僕はその画面の文字を愛しく眺めてから立ち上がり、詩音に一言言って部屋の外へと出た。
少し歩いたところに自動販売機とベンチがあったから、そこに腰を下ろして電話に出た。
「もしもし。久しぶり」
『あぁごめん、今仕事中やった?忙しかったら、無理して出んでもええんやで?』
久々に掛けてきたと思ったらいきなり謝られて面食らう。
この前の電話でも思ったけれど、修介は僕の事を前よりも随分と気遣ってくれている。
それはとてもうれしいし、ありがたい事だけど、そんなに心配してくれなくても大丈夫なのに。
「無理なんてしてないよ。ごめんね、出るの遅くなって。もう終わってるから大丈夫。修介、元気にしてるの?」
『え?めっちゃ元気やで!景は?ちゃんとご飯食べてるん?』
「何?お母さん?」
そんなやり取りをしてから、七月二日の話をした。
詳しくは教えてくれなかったけど、その日、修介は何かおもてなしをしてくれるらしい。
僕の帰りをマンションで待っていてくれるというのだ。
それを聞いて僕はすっかり上機嫌だ。
だって、僕が帰ったら、修介がおかえりって言ってくれるんだよね?
そんなに嬉しいこと、他に無いよ。
「じゃあ二日、なるべく早く帰るから。ごめんね、ゆっくりできなくて」
『ええんよ!俺も、忙しいのになんか押しかける感じでごめんな。あ、じゃあ、今日はもう遅いからそろそろ……景、す……好きやで?』
あ、出た。
修介のたまにある愛の告白。
声がちょっとだけ震えてるんだよな。きっと恥を忍んでの事なんだろう。
僕はそれが可笑しくて、自然と顔がほころんでしまうんだ。
「うん。僕も好き。じゃあね」
修介は「うんっ」と言ってすぐに電話を切ってしまった。
照れてるんだろうな。
あぁ、今どんな顔をしているのか見てみたいな……
「藤澤さん」
急に声が降ってきたから顔を上げた。
詩音がすぐそこに立っていた。
「すみません。聞くつもりは無かったんですけど、自分の部屋から飲み物を持ってこようとして」
「ううん、いいよ別に」
僕は詩音の気配に全く気付かなかった。
好き、なんてはっきり言ってしまったから、きっと詩音は気付いたはずだ。
案の定、詩音はニコリとしてから僕の隣に座り、僕のスマホを指さした。
「もしかして、今の電話の方とお付き合いされてるんですか?キタムラ、シュウスケさんと」
詩音の口から修介の名が出てきたのには驚いたけど、着信画面を見ていたのだろう。
初めて出会った日、詩音にはこの事を話す日が来るだろうなと予感はしていたから、僕はためらうことも無く口にした。
「うん。付き合ってるよ」
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