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第300話

小走りで向かう途中、スマホの時計を見ながら逆算していった。 予定が狂ってちょっと余裕が無いけど、大丈夫だ。 ケーキを受け取った後そのまま電車に乗って、プレゼントを受け取りにいけば、景の帰って来る時間までには十分間に合う。 カフェのドアを開けるとカウベルが鳴り、中からはいらっしゃいませー、と元気な挨拶が響く。 出てきたのは慶子さんではなく、いつも一緒に働いている慶子さんの友達だった。   「あ!遅れてすみません!今日予約していた北村ですけど」 「あぁ、はい。伺ってます。慶子、今ちょうど買い物に行っちゃってていないんですよ。もうすぐ帰ってくるとは思うんですけど。あ、引換伝票お持ちですか?」 「はい、持ってます……」 俺は額にかいた汗を拭いながら、リュックを下ろして中を漁った。 このクリアファイルの中に入って……無い。 大学でもらったプリントも挟んであるから、その中に紛れているんだと思い、一枚ずつ出して確認したけれど、どこにも無かった。 そして俺はここで気付く。 (玄関の靴箱の上や……)   今日家を出る前、これは絶対忘れないようにと律儀に置いたんだった。 それがかえって仇となったなんて。 俺は自分のアホさ加減に項垂れながら呟く。 「すみません。忘れたみたいなので、取りに行ってきます……」 「あぁ、大丈夫ですよ、伝票無しでも。今準備しますね。椅子に座ってお待ちください」   あ、良かった。 ホッとしたところで、その店員さんがグラスに水を注いで渡してくれたから、グイっと一気に飲んだ。 火照った身体が冷やされて気持ち良く、景のために頼んだ苺のロールケーキを見ながら上機嫌でいたけど、また重大な事に気が付く。 (プレゼントの引換伝票も一緒に忘れた……!) しかもそっちの伝票は、無くても大丈夫というわけでは無さそうだ。 必ず忘れずに、と店員さんに釘を刺されたのを思い出した。 あぁー。 もう一度アパートに戻らなくては。 アホや。アホや俺。 自責の念に駆られながらも支払いを済ませ、慶子さんの帰りを待たずに、再度アパートに引き返したのだった。    

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