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第301話

ツイてない日はとことんツイてない。 伝票をしっかりとバッグに入れて、駅の方へ向かっている最中、雨に降られてしまった。  「わーっ!もうっ、なんでやねん!」   なんとなく雲行きは怪しいなとは思っていたけど、今日は天気予報の傘マークはついていなかったはずだ。 天気が変わりやすい時期なのは重々承知だけど、まさかこんな時に。 今日はどうやら厄日のようだ。   土砂降りじゃないだけましだけど、それでもしっとりと髪や服が濡れてきた。 駅の近くまで来てしまったし、今更傘を取りに帰るのは躊躇われたから、ケーキが濡れないように腕でカバーしながら走った。 (駅前のコンビニで傘買うか……) 駅から景のマンションまで少し歩くから、その時に必要だ。 コンビニが見えて来たからそちらに近づいていくと、店の外に設置されている喫煙所で、若い男女が痴話喧嘩をしていた。 「-----、お前、ほんといい加減にしろよ?!」 「だって、こっちだっていろいろと-------、だから------」 雨の音でよく聞こえないけれど、男が女の子に何やらまくしたてていた。 人が喧嘩してるところを直にこうやって見るのは久々だなぁと思い、なるべく直視しないように視線を外していたけど、いきなり男が女の子の手首を掴みあげて、勢いよく引っ張ったから女の子はよろけてしまった。 ぎょっとして、見るつもりは無かったけれど只ならぬ雰囲気にじっと見つめてしまった。 と同時に、女の子と目が合って、俺は自然と声に出ていた。   「莉奈」 「あ、北、村……さん……」 莉奈は目を丸くした後、恐る恐るといった感じで隣の男の顔を覗き込んだ。 眉が細く、すっと通った鼻筋。 短髪の明るい髪色で、毛先がつんつんしていて、耳たぶが取れそうな程の大量のピアス。 スポーツマンなのか、ガタイもよくて筋肉質。 あ、強そう。で、怖い。不良。 その男は俺をなめまわすように見てから声を発した。 「あ?誰?」 そいつは俺の予想を遥か上を行くドスの効いた声を出して、ギリッと思い切り睨んできた。 その目に委縮してしまい、莉奈、と呼んでしまったことを後悔し、そしてこいつが噂のDV彼氏のゆきちゃんだ、とすぐに理解した。 いつだったか、ゆきちゃんの顔が見てみたいとは思ったけど、こんなところで叶ってしまうなんて。

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