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第302話
初対面なのにいきなりのその威圧感あふれる態度に俺はたじろいでしまって、ヒヤリと汗をかく。
ゆきちゃんはまた、莉奈の腕を引っ張りあげた。
「おい莉奈、誰こいつ。まさかお前、女友達と会うって言っといて男と会ってたんじゃねぇだろうな?」
「え、違うよ!そんな事するわけないじゃん」
「ほんとかよ? おい、お前誰?莉奈の何?」
ゆきちゃんは莉奈をまくしたてたと思ったら、また標的を俺に移したから、俺はごくりと生唾を飲み込んだ。
「あ、俺は、り……高宮さんと同じバイト先で働いてる、北村です」
「あ、そう。じゃ、ジロジロ見てねぇでもうあっち行っとけよ。こっちは大事な話してんだから」
ゆきちゃんは俺に興味が無くなると、莉奈の腕を取り、また豪快に引っ張り上げた。
それを見て、莉奈とカフェに行った時の事を思い出す。
莉奈の腕に巻かれていた包帯。
たぶん、こうやって毎回怪我をしていたんだ。
こんな時、正義のヒーロー……例えば景だったら、ゆきちゃんのその太い腕をいとも簡単に捻り上げ、長身を生かして思い切り見下しながら低音を響かせて「うせろ」なんて睨みをきかせつつカッコよく言うんじゃないだろうか。
よし、俺も……って、できるわけなーい!!
「あっ!あの!」
声を掛けると、ゆきちゃんは面倒そうに俺を見つめ返した。
とにかく、このまま見過ごすわけには行かない。
きっと、落ち着いて話せば分かってもらえるはずだ。
「何?まだなんかあるわけ?」
「そ、そういうの、やめた方がいいと思います。高宮さんだって、やめてほしいって思ってるみたいなので……」
「そういうのって?」
「そうやって、手上げたりするの……」
ゆきちゃんはキョトンとした顔で俺を見つめたまま、莉奈から手をすっと離したから、俺は安堵のため息を吐いた。
(良かった。分かってくれたみたいやな……)
安心したのも束の間、ゆきちゃんは口元を歪ませて、ははっ、と乾いた笑いを漏らす。
「ちょっとお茶する?西村くん」
「え?いや、北村です……って、え?」
「そこの店で。莉奈と楽しく三人で」
ゆきちゃんは、駅の方に向かって顎をしゃくると、俺たちに背を向けて歩き出してしまった。
俺はしばし呆然とその背中を眺める。
えっとー……あれ、俺、ゆきちゃんの事怒らせた?
目が点になっていると、莉奈は両手を顔の前で合わせた。
「北村さーん、すみません……ゆきちゃんのお願い、聞いてもらってもいいですか?聞かないと、ますます厄介な事になるので……」
「えぇー……」
「ちょっとでいいので、お願いします~!」
――あぁ、やっぱり今日は厄日だ。
逃げ出したかったけど、きっとここで逃げたら莉奈が大変だろう。
仕方なく俺は彼の後を追った。
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