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第304話

別にコソコソしているつもりは無い。 莉奈が電話したり、話しかけてくるから相談に乗ってあげてただけで。 「ごめんねゆきちゃん。北村さん話しやすくてつい。でもゆきちゃんが嫌だったら、もうそういうの辞めるよ。だから私の事怒るのも、もう辞めてほしいんだ」 莉奈は控えめに、だけど真っ直ぐにゆきちゃんを見据えて言った。 ゆきちゃんは視線を莉奈に移す。 「怒られるような事ばっかしてんのが悪りぃんだろ?さっきだって、折角俺がわざわざ来てやったのに、友達と会う予定だから帰れって言われたから腹立ってよ」 話しながら俺にも視線を移して、笑っていた。 俺はゆきちゃんの言葉に違和感を覚えたけど、莉奈はすぐに否定した。 「帰れなんて言ってないじゃん!前から遊ぶ約束してたんだよ。来てくれたのは凄く嬉しいけど、今日はごめんねって言っただけじゃん」 「それって大学の友達だろ?そんなのいつでも遊びに行けんのに、なんで俺優先じゃないわけ?普通は彼氏優先にすんだろ?」 「だって、前から楽しみにしてたし」 「俺これから夜中のバイトあんだぜ? それでわざわざ会いに来てやってんのに、俺の扱い酷すぎねぇ?」 「だから、来てくれた事には感謝してるって」 「あのっ!」 ちょっと声が裏返った気がするけど。 しばらく二人のやり取りを聞いていた俺だったけど、勇気を振り絞って声を発した。 二人が俺の顔を凝視したから、恥ずかしかったけど思うがままに口にした。 「たとえ付き合ってたとしても、自分の、物、みたいに扱うのは、ちょっと……。高宮さんだって事情があるんだし、優先するしないは高宮さんの意思であって、例え恋人だとしても何も言う権利は無いっていうか……だから、普通は、とか言わないほうがいいと思います」 景と付き合ってから、俺は強くなった気がする。 もともとが弱すぎるから、景の半分の強さも無いと思うけど。 だって、前だったらこんなヤンキーに言い返そうだなんて絶対に思わなかった。 全部、景が教えてくれたんだ。 ちゃんと、言葉にして伝えるんだって。

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