305 / 454

第305話

(ちょっとは成長したんちゃう?俺……) ジーンとしていたけど、ゆきちゃんに視線を移した俺はすぐに後悔した。 口の端を歪ませて、まるで額に血管が浮き出るくらいに怒りのオーラを漂わせているゆきちゃんがいたから、涙目になる。 「……チッ」 ひぃ!舌打ちされた!! 逃げ出したい気持ちになっていると、ゆきちゃんは突然、莉奈の腕を掴んだ。 「おい。何なのこいつ。お前ら本当に友達なの?お前、本当はこいつの事好きなんじゃねぇの?」 「はぁ?そんなわけないじゃん。ゆきちゃんだけだって」 「じゃあなんでここまで言われなきゃなんねーんだよ!本当は相談、とか言っておいて二人で遊びに行ったりしてんじゃねぇの?お前もそれが楽しいんじゃねぇの?」 「だから、してないってば!」 「本当かよ?!」 またしても腕をギュッと掴み上げていた。 どうしよう。また始まってしまった。 この状況、俺のせい?! 俺は咄嗟にリュックを掴み、中から財布を取り出して紙幣をテーブルの上に置いた。 「ごちそう様でしたっ!」 そう言い放って立ち上がると、二人は一旦言い争いをやめて、俺をキョトンと見上げた。 俺は、気づいた時にはもう走り出していた。 莉奈の腕を引っ張って。   「えっ、北村さん?」 「は?おい、待てよ!」 そう、俺は逃げたのだ。やっぱり俺は弱かった。 こんな事したら余計に面倒なことになるなんてこの時は全く考えもせずに、ただただ逃げろと脳が指令を出したからそれに従った。 後ろからゆきちゃんの叫ぶ声が聞こえていたけど、必死で莉奈と一緒に雨の中を駆け抜けた。とにかくゆきちゃんから逃れなくては、と。

ともだちにシェアしよう!