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第307話

ほっとした表情の莉奈に俺はニコリと笑ってから、誤魔化すようにケトルのお湯を沸かし始める。 その最中、俺もスマホを手に取り画面を凝視した。 お店の閉店時間もあるし、出来上がったライターを受け取るのは無理かもしれない。 今から出ればギリギリ間に合うかもしれないけど、莉奈を放っておくわけにもいかない。 本当は、俺がマンションに先に入って、王道だけど、サプライズでクラッカーとか鳴らしてプレゼントを渡したかったけど。 プレゼントも無いまま行っても、意味あるんだろうか。 ケーキもダメにしちゃったし。 行けないなら、景に連絡しなくちゃならないのに怖くて出来なかった。 俺から会いたいって言っておいて、景は忙しい中時間を作って俺と会ってくれるって言ってくれたのに、こんな事で会えないだなんて言ったら、景はがっかりするんじゃ無いだろうか。 いや、がっかりじゃない。 超絶怒るに決まってる。 朝井さんの一件や瞬くんの時を思い出す。 景って、カッとなると超絶怖いんだった。 (……無理無理!) 頭やバックをタオルで拭いている莉奈に視線を送りながら、考えた。 何て言えばいいの? 莉奈が部屋に来てるから、今日は行けません、って? あのイケメン、そんなの聞いたらどう思う? 考えろ、考えるんだ。 そう思いながらも時間は無情にも過ぎていく。 何かいい案は…… 落ち着く為にもホットジンジャーを作ろうと、カップを用意して、蜂蜜を冷蔵庫から出して……そんな時だった。 俺のスマホが震え出したのは。

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