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第309話 side景
「藤澤さん!お誕生日おめでとうございまーす!」
都内での撮影終わり、スタジオの照明が急に落ちたかと思ったら、現場スタッフや共演者たちがクラッカーを派手に鳴らした。
ロウソクが立てられたホールケーキが運ばれてきて、僕が火を吹き消すと拍手喝采が起こる。
毎年こうやって祝って貰えるのは本当に感慨深いし、つくづく僕は周りの人に恵まれていると思う。
監督や共演者から祝福の言葉を貰っていると、スタジオの奥から詩音が花束を持ってやってきた。
「藤澤さん、お誕生日おめでとうございます」
「ふふ、何これ、詩音が用意したの?」
「はい!スタッフさんと何人かで相談して、お花もあったら喜ぶんじゃないかと思って!」
「全く。プロポーズじゃないんだからさ」
そう言いながらも僕は嬉しくて笑顔で受け取った。
ここまでばかでかい花束を受け取ったのは人生で初めてかもしれない。
赤い花。鮮やかなハート形をしているこれはきっとアンスリウムだ。
花言葉は情熱。
ハワイでは、バレンタインデーのプレゼントとしても贈られることがある。
「皆さん、どうもありがとうございます。これからも精進していきますので、僕の事、どうか見捨てないでくださいね」
僕の言葉に皆がハハハ…と笑ってくれる。
その後スタッフが、ケーキにナイフを入れて一人分にカットして配っていった。
僕は特別大きなケーキを渡されたけれど、あまりそれには手をつけず、気持ちだけ受け取ることにした。
今日は修介が家で待っている。
あまり長居はしない予定だから。
「藤澤さん、これ、俺からの個人的なプレゼントです。良かったら受け取ってください」
詩音は、綺麗な包装紙に包まれた箱をこちらに差し出した。
「え。詩音、ありがとう。開けてもいい?」
詩音はニコリと笑ったから、僕はリボンの端を引っ張って丁寧に紙を外し、箱の中身を確認する。
「え、これ……」
感激していると、詩音もそれを見ながら無邪気に笑って言った。
「オイルライターです。藤澤さん、前使ってたお気に入りのやつ、前に無くしたって言ってましたよね。それと同じかどうかは分かりませんが、特徴を宮崎さんにも聞いて。良かったら使って下さい」
以前使っていたものはオーダーメイドで、指輪同様、細部までこだわって作ってもらったものだった。
しかし一年ほど前、地方でたまたま入った飲食店に置き忘れてしまい、そのまま無くしてしまったのだった。
そういえば最近、宮ちゃんにこの話を聞かれたのを思い出した。
なぜ今更僕の無くしたライターの話を持ち出すのだろうと少し疑問だったけれど、まさか詩音の思惑があっただなんて。
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