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第316話

その後莉奈は、ゆきちゃんから「もう地元へ帰る」という連絡をもらった。 それを見て一先ず安心した莉奈は立ち上がり、帰り支度を始める。 一人で帰ると言ったけど、俺はアパートまで送っていくと言ってついていった。 もう雨はすっかり上がっていて、外はヒンヤリとした空気に包まれている。 二人で横に並びながら、しばらく無言で歩いていた。 ずっと景の事を考えていた。 今日、会いに行けなかった。 少しでも会えるの、楽しみにしてたんだけどな。 でも、莉奈やゆきちゃんに怒りの矛先が向いているかといったらそうでは無かった。 全部、自分の行いのせいだ。 プレゼントだって、もっと早くから選んでおけばギリギリの受け取りにならずに済んだんだ。 大学の課題だって、就活の提出物だってそうだ。 ちゃんと余裕を持ってやっておけば、こんな事にはならなかった。 「北村さん、今日、いろいろと迷惑掛けちゃってすいませんでした」 「あ、あぁもうええよ、謝らんで。俺が勝手に連れてきたんやから」 「あはは。もう、ビックリしましたよ。いきなり逃げ出すんですもん。なんか駆け落ちでもした気分でした」 「はは」 俺は乾いた笑いでその場をやり過ごす。 「そういえば北村さん、何か用事があったんじゃないんですか?もしかして電車で出かける予定でした?」 「あぁ、実は友達の家に……でも気にせんで大丈夫やで」 「えぇ、そうだったんですね。ますます頭が上がらないです。本当にすみません」 景は今日の事を聞いたら何ていうかな。 ……考えないでおこう。今は。 俺は今一度莉奈に確認を取った。 「じゃあ、莉奈。彼氏との今後の事、ホンマにちゃんと考えたほうがええからな?」 「え、今後の事って?」 「もっと周りに目を向けやって意味やで。普段は優しくてええ人なんかもしれへんけど、あんな風に豹変しとったら長続きなんてせーへんで」 「……そーですよねぇ」 莉奈は珍しく俺の言うことに反論しなかった。 そのまま黙り込んでしまい、結局無言のまま、莉奈の住むアパートの前までたどり着いた。 「じゃ、また何かあったら……ていうか、俺、あんましゃしゃり出んほうがええと思うけど。ちゃんと考えるんよ」 「北村さん、あの」 莉奈はそのまましばらく固まってしまった。 じっと莉奈を見ていたけど、視線を下げて何かを考えているようだった。 俺は頭にハテナマークを浮かべたまま何も言えずにいたら、莉奈は困ったように笑ってかぶりを振った。 「いえ、何でもないです!じゃあ、ありがとうございました!」 莉奈はそう言って、部屋のドアを開けて中に入り込んだ。 何を言おうとしたんだろう。 気にはなったけど、引き止める事はしなかった。 踵を返して、来た道を戻りながらアプリを開いて、景にメッセージを送ろうと文字を打っていった。 『お誕生日おめでとう。今日は、ごめんね。本当は行きたかったんだけど、』 そこまで打ったけど、後に続く言葉が出て来なくて、全部消去して結局送るのをやめた。 景は優しいから、気にしなくて大丈夫だよって言ってくれるだろうし。 ちゃんと、会って話そう。 次会えるのはいつになるのか分からないけど、きっと近いうちに会えるだろう。 それまでに、莉奈も彼氏とすっぱり別れられたらいいんだけど。

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